地球上で10万年以上存在する湖はまれという。多くの場合、1万年ほどで土砂がたまって消失してしまうからで、400万年の歴史をもつ琵琶湖は例外的に進化を遂げ、多様な固有種をはぐくんできた。
その湖面に1970年代、大規模な赤潮が発生した。家庭用合成洗剤や肥料に含まれるリン、窒素が湖に流れ込んで赤褐色のプランクトンが大増殖したと分かり、合成洗剤をやめて粉せっけんを使う運動が広がった。
運動は行政を動かし、全国に先駆けて家庭や農地、工場からの排水を規制する富栄養化防止条例(80年7月1日施行)に結びついた。
翌年の滋賀県民討論会で7月1日を「びわ湖の日」と決めてから、今年で40年を迎える。 赤潮は人の暮らしと湖の生態系とのつながりを意識する契機となった。改めて、琵琶湖と共に生き、歴史を未来へつなぐのは私たちの役目であることを思い起こしたい。
40年間で水質は改善したものの、琵琶湖大橋以南の南湖では近年、赤潮とは別のプランクトンの繁殖(アオコ)が続いている。南湖より深い北湖では湖底の貧酸素状態が長期化し、イサザやヨコエビといった固有種の死骸が確認されている。背景にあるのは温暖化だ。
海で問題になっているマイクロプラスチックも、湖水から検出されている。台風や豪雨時に川から流れ込んだプラスチックごみが粒状になって浮遊しているといい、同じく生き物への影響の有無が注目されている。 これまでにも外来の魚や水草が在来種を脅かし、駆除作業が繰り返されてきたが、近年指摘される現象はより見えにくく、対策が難しい。人々の関心が十分に向けられないまま、異変が静かに進んでいる。
加えて悩ましいのは、水質が改善しても漁場としての豊かさが戻っていない点だ。アユの成育不良、セタシジミの肥満度低下などが報告されている。魚介の成育にはある程度のリンや窒素が必要だが、これらの流入を減らし続けたことによる「貧栄養化」、湖岸の開発事業の影響など、さまざまな要因が考えられている。
海洋では貧栄養化がアサリやイカナゴの不漁、ノリの色落ちをもたらしているとされ、沿岸自治体が下水処理でリンや窒素を取り除き過ぎないよう調整を試みている。湖沼でも有効かどうかは慎重に見極めねばならないが、人間がきれいと思っている水が実は他の生き物たちにはすみにくいのではないか―との視点は、共生を考える上で重要だろう。
60以上の固有種をもつ琵琶湖では、赤潮の反省から国、県、大学などが水質や水生生物のモニタリングを続けている。良好な水質と豊かな生態系を両立させる新たな指標や評価法を見いだしてほしい。
知れば知るほど、琵琶湖は複雑で奥深い。40年目の「びわ湖の日」を一つのきっかけに、私たち人間を含め、水とともに暮らす多様な生き物のつながりについて関心を高めたい。