全国的な河川環境の悪化を背景に龍谷大は福井県立大発のスタートアップ、フィッシュパス(福井県坂井市)と連携し、「環境DNA」分析を用いて河川に生息する魚種を地図上に表示できるアプリの開発に乗り出した。水産資源の「見える化」を徹底し、水産業の振興と生物多様性の保全を目指す。
フィッシュパスは、釣りをする際に必要な許可証、遊漁券のデジタル発行サービスなどを提供するアプリを開発・運営している。漁協組合員の高齢化などを背景に日本各地の河川が荒廃の危機に直面する中、同社が着目したのが、龍谷大の持つ環境DNA分析技術だった。
環境DNAとは、空中や水中などを漂う排泄(はいせつ)物や剥がれたうろこなどに含まれる微量なDNAを指す。カップなどで採水した河川の水からDNAを抽出し分析すると、その場所に生息している生物種を網羅的に割り出すことができる。龍谷大先端理工学部の山中裕樹准教授(魚類生態学)らが世界に先駆け環境DNA分析の研究を行ってきた。
放流した稚魚の把握や外来種対策などといった水産資源の保護・活用のためには、河川の各地点に生息する魚種の把握が不可欠。従来は専門的な技術を持つ調査員が潜水して観察したり、投網などでサンプルとなる魚を捕獲したりしていた。これに対し簡単にサンプル採取ができる環境DNA分析であれば、コストや環境への負担を減らし、長期的かつ広域的な資源調査が可能となる。
分析を依頼したい漁協関係者らはアプリを通じて申請し、送付される専用キットで自ら採水する。それをフィッシュパスや龍谷大で分析し、結果をアプリの地図上に表示する。漁協側が水産資源の保護・活用に利用できるだけでなく、一般の釣り人が釣り場選びの参考にすることも想定される。
来年5月のサービス開始を目指している。山中准教授は「データに基づいてよりよい環境への働きかけを考え、事業や施策の判断をする社会になれば」。フィッシュパスの西村成弘代表取締役は「漁業のあり方を変えると確信している。日本の川の未来を変えていきたい」と話した。(荻野好古)