かつてのイワナの宝庫、今は… 放流外来魚が席巻 長野県【上高地の1世紀 歩みとこれから】

生物と人、共生の道
 「大きなイワナがいる!」。初夏、上高地の小梨平で小川をのぞき込んでいた観光客が声を上げた。ただ、実際はイワナではなく、清流をわが物顔で泳ぐのは欧州原産のブラウントラウトだ。

 上高地ではかつて「イワナ七分水三分」と言われるほどのイワナの宝庫で、訪れる人の食膳をにぎわせた。だが、大量捕獲や河川工事もあり、数が減少したという。

 大町山岳博物館(大町市)が編集した「北アルプス博物誌」によると、県は大正後期から昭和初期にかけて梓川の清流を利用し、イワナのふ化放流や、ヤマメ、ヒメマス、カワマス、ブラウントラウトの移植放流を実施した。

 安曇村誌によれば、1939(昭和14)年に地元の漁業組合が明神池近くにあった県の養魚場を引き継ぎ、カワマスなどの放流を続けた。70年代半ばには、魚類保護の観点から上高地一帯が全面禁漁区に。冷たい水を好む外来種のブラウントラウトとカワマスは定着し、近縁種のイワナとカワマスとの間で交雑も進んだ。

「本来の姿」自然復活は困難

 県環境保全研究所(長野市)が2020年に小梨平の梓川支流で行った調査では、ブラウントラウトとカワマスが8割余を占め、交雑種も確認。イワナは確認されなかった。担当した同研究所主任研究員の北野聡さん(55)は「調査を行ったこの20年間で、もともと少なくなっていたイワナの数がさらに減った。今の状況でイワナの数が自然に復活することはない」と話す。

 上高地が国立公園に指定された昭和初期にはブラウントラウトとカワマスが既にいたことや、移植放流した歴史的経過を踏まえ、環境省上高地管理官事務所は「駆除の対象とはなっておらず、具体的な対策は取ってこなかった。今後、駆除の是非を検討し、地域関係者と考え方を共有したい」とする。

 地元の安曇漁業協同組合の組合長、大野貢さん(77)は「50年前にはどんぶら(川のよどみ)にイワナが100匹もいる場所もまだ残っていた」と懐かしむ。「できればあるべき本来の姿に戻したい」と考えている。

上高地の魚類調査

 県環境保全研究所によると、上高地の9地点で行った調査のうち、小梨平のある支流では1996~97年にカワマス約6割、ブラウントラウト約2割、交雑種約1割、イワナ1割以下の割合で確認。2020年にはブラウントラウト約5割、カワマス約3割、交雑種約2割で、イワナは確認されなかった。他の調査地点でもおおむね同様の傾向が見られた。徳沢地区から上流ではイワナが優勢という。

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