三重の“アイドル”オオサンショウウオを後世へ 生態調査し保護活動

 豊かな自然環境の象徴として、三重県名張市が発信し始めた世界最大級の両生類・オオサンショウウオ。市内の川に生息する在来種は国の特別天然記念物。3000万年前からほとんど姿を変えていない貴重な生物が、私たちの身近な川でゆらりと泳いでいる。世界の人々にも人気がある、三重県の控えめなアイドルを推(お)してみませんか。【久木田照子】

 ◇調査に啓発、全国大会向け機運

 オオサンショウウオが行動するのは主に夜。日中は川岸の横穴や大きな石の下に隠れていて、あまり姿を見せない。名張市では人が住むまちの近くの川に生息するが、目撃した人は少ない。謎に包まれた彼らの生態を少しずつ解明してきた一人が、市民団体「日本オオサンショウウオの会」の清水善吉会長(65)=松阪市=だ。研究者や三重、奈良の県教育委員会などと協力し、貴重な生物を後世に生き続けさせたいと、調査に取り組んでいる。

 清水さんは熊野市出身。大学で野ネズミなどの生態を学び、県内の学校や博物館で勤務した。県の絶滅危惧種の調査にも携わった。50代前半で退職し、市民団体「三重自然誌の会」を結成し、地域の自然を残す活動を続ける。

 オオサンショウウオとの本格的な出会いは、博物館での仕事の一環で京都大による生息調査に関わった時だった。「こんなに大きな生物が三重の川にいるのか」。遭遇して驚き、学びを深めていった。

 京都大の調査で、名張市内の川で外来種・チュウゴクオオサンショウウオとの交雑問題が深刻化する実態が浮かび、2013年度に文化庁や三重県教育委員会などが協議し、緊急調査を開始。三重、奈良の県教委などがオブザーバー参加する保護指導委員会(委員長=松井正文・京都大名誉教授)も設置した。三重、奈良の県境地域(名張市、奈良県宇陀市など)を中心に交雑の実態を探った。もともと国内に生息する在来種の保存のためだ。

 調査は同会に委託された。両県にまたがる名張川水系(滝川など)や、それが流れ込む木津川水系で、22年度までに約1200匹を一時捕獲し、尾びれの皮膚片を採取し、京都大で遺伝子を調べている。交雑種と判明した個体は、廃校になった小学校を転用した名張市郷土資料館のプールで隔離飼育し、在来種は川に戻した。資料館勤務を機にオオサンショウウオに関心を持った名張市職員、川内彬宏さん(38)も、清水さんから調査について学び、環境省の環境カウンセラーとなって川での調査や保護のための啓発に取り組む。

 調査では、オオサンショウウオの生態に迫ると同時に、調査に適した道具や手順のノウハウもまとめてきた。夜の川を歩く危険に注意しながら専門的な調査ができる、地元の人材を育てる重要性もみえてきた。

 調査や啓発活動、夏休みに県内外の若者らがオオサンショウウオを学ぶ合宿などが行われ、報道される機会も増えた。「ひそかなオオサンショウウオ人気」を後押しに、名張市では2025年、日本オオサンショウウオの会の全国大会が開かれることになった。清水さんは「オオサンショウウオは名張の宝。大会ではどんな目的を掲げるのか。まずはそれを決めて準備をしましょう」と呼びかける。

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