「幻の魚・イトウに影響」 懸念される生息地での風力発電計画

 絶滅が危惧されている大型淡水魚「イトウ」の産卵に甚大な影響があるとして、北海道猿払村などで風力発電事業を計画している東京都の企業に対し、日本自然保護協会が事業の中止を求める意見書を提出した。猿払村はイトウが安定して繁殖している数少ない生息地の一つで、同協会は「生物多様性上、最大級に問題がある計画だ」と指摘している。

 イトウは環境省のレッドリストで絶滅の恐れが2番目に高い「絶滅危惧ⅠB類」に分類されている。同協会によると、かつては北海道と東北の45河川水系で生息が確認されていたが、現在は北海道の11水系のみに生息。安定した繁殖は猿払村を流れる猿払川流域など7水系に限られ、「幻の魚」とも呼ばれる。

 懸念されているのは「(仮称)宗谷丘陵南風力発電事業」。再生可能エネルギー発電大手「ジャパン・リニューアブル・エナジー」が事業主で、猿払村、稚内市、豊富町にまたがる丘陵部に最大59基の風車(最大計35万4000キロワット)を建設する計画だ。計画段階環境配慮書が9月13日からウェブなどで公開され、10月16日まで意見を受け付けている。

 事業想定区域の東側は猿払川などイトウが生息する河川の上流域で、春の産卵期にはイトウが周辺に遡上(そじょう)する。同協会は意見書で、工事に伴う森林伐採で降雨時に土砂が流入しやすくなり、産卵に適した小石や砂利の川底が埋まることを危惧。工事で山の保水力が失われることで夏に川の水量が不足し、高水温と酸欠でイトウが死ぬ事態も懸念する。

 他に、エゾマツなどの自然林の伐採で環境が大幅に改変されることは避けるべきだと指摘し、オオワシなどの鳥類にも影響が出ないように計画地を十分に検討すべきだとしている。

 同協会の若松伸彦・保護室長は「近年、再生可能エネルギー事業でカーボンニュートラルとネーチャーポジティブ(生物多様性の回復)の間の摩擦が生じる例があるが、その最たる事例だ。周辺でも風力発電が行われており、我々は全てに反対しているわけではない。今回の計画はあまりにも場所が悪い」と話す。

 また、国立環境研究所もこの計画について「国内に残された(イトウの)最後の健全な生息域が脅威にさらされることは避けられない」とする解説記事をウェブで公開した。同研究所が1998年に猿払川全域で確認した産卵床311カ所のうち、118カ所(38%)が今回の計画の事業想定区域に含まれていた。

 同研究所の福島路生・主幹研究員は「土砂の流入などの影響は区域内にとどまらず、区域外の下流側にも及ぶ可能性がある」と指摘する。また、稚内市と豊富町の河川にもイトウが生息し、産卵域が事業想定区域に含まれている可能性があるという。

 ジ社広報CSR部は「今回示したのは計画の最大範囲であり、今後、環境評価の手続きを進める中で具体的な事業範囲を決める。イトウの生息地であることは把握しており、影響が出ない形で事業を進めたい」としている。【石川勝義】

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