いないはずの人工交雑魚「クエタマ」が鹿児島湾で相次ぎ目撃 養殖場から逃げた? 生態系への影響危惧

 自然界に存在しないはずの魚が、鹿児島湾で相次ぎ目撃されている。専門家によると、高級魚のクエと、世界最大級のハタとして知られるタマカイを人工的に掛け合わせて誕生した交雑魚だ。養殖場から逃げ出した可能性が高いと考えられるが、詳細は分かっていない。自然繁殖する可能性も否定できず、専門家は生態系への影響を危惧する。

 交雑魚は、開発した企業により「タマクエ」や「クエタマ」と呼ばれ、鹿児島県内外で養殖されている。県内各地で水揚げ事例を確認している鹿児島大学総合研究博物館の本村浩之教授(魚類分類学)ら複数の専門家によると、クエより大型化し、成長も2、3倍早い。両種の特徴を持ち合わせ、帯状と斑点の模様がある。

 鹿児島市下田町の竹迫裕也さん(42)の遊漁船では、2019年ごろからキジハタやオオモンハタに交じって釣れるようになり、「養殖から逃げた交雑魚らしい」とうわさが出回った。30センチほどだった体長は70センチを超え、重さも7~8キロと大型化。在来種のハタ類を釣り上げる際に食いつくこともあり、「在来種が減らないか心配」。

 同市の水中写真家・出羽慎一さん(53)は19年9月、沖小島近くで体長35~40センチ程の個体を初めて目撃、その後も周辺を潜るたびに見かける。最近は60~80センチほどの個体が多く、成長しているとみられる。「岩の裂け目を巣穴にし定着しているようだ」と語る。

 県水産振興課は「県内でも養殖していると思われるが、実態は把握できていない」と説明。鹿児島湾での生息情報やいけすから逃げた報告はないという。

 一般的に、人工交雑魚が自然環境下で繁殖する可能性は低いとされる。ただ、クエタマを開発した近畿大学水産研究所(和歌山県白浜町)の升間主計(ますま・しゅけい)所長は「雌雄共に正常に成熟するが、繁殖の可能性については分かっていない」と説明する。タマクエを開発したイヨスイ(愛媛県宇和島市)は「繁殖能力は基本的にないはずだが、完全には否定できない」としている。

 鹿大の本村教授は「台風などで交雑魚が養殖いけすから逃げ出した可能性が高い」と推測。ハタ類が捕食されたり、えさの競合に負けたりと生態系バランスが崩れる可能性を指摘する。

 魚類の雑種について約30年研究する三重大学の河村功一教授は、自然界で交雑魚が繁殖する可能性もゼロではないとし、「コストはかかるが、生態系を保全するためには安全な陸上での養殖が望ましい」と話した。

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