桝太一の活躍にも期待 生物多様性の恵み享受も対応に遅れ、保全実現に必要なこと〈AERA〉

 地球温暖化とともに、対応すべき環境問題である生物多様性の危機。その保全実現に向けて何が必要なのか、重要人物は誰か。福岡県保健環境研究所専門研究員・オイカワ丸(中島淳)さんに聞いた。AERA 2023年1月2-9日合併号の記事を紹介する。

 環境問題の中でも生物多様性への対応は少し後れをとっていた面があります。差し迫った気候変動やゴミ問題に比べ、生活にあまり直接的な影響がないと思われていることがその理由です。生態系はよく飛行機にたとえられますが、膨大な数の部品のうちネジが一つなくなっても、すぐに飛行機が落ちることはないからです。

 ところが一つひとつの生物の絶滅が積み重なり、ついに私たちの日常や産業に直結するところで問題が顕在化したのが22年だったように思います。例えばアサリの産地偽装問題。そもそもアサリがとれなくなったことが問題の発端です。水産資源の激減が、食文化の消滅に繋がる危機感を覚えた人もいるでしょう。

 一方で、生物多様性の保全に関する様々な動きも目に見える形で表れています。COP15で世界的な目標が整理され、国内では外来生物に対する規制も進みました。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)やOECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)など、企業による生物多様性保全活動への基盤も出揃いました。

 23年以降、やるべきことをどう実現していくか。鍵になりそうな方々を挙げてみました。  国立環境研究所の五箇公一先生は、黒ずくめの服装で変わった風貌が目立ちますが(笑)、お茶の間に届くように生物多様性の重要性を訴えている方です。五箇先生はダニが専門ですが、同じく国環研の西廣淳先生は水草が専門。生物多様性を考える時、遺伝的な地域ごとの違いなどマニアックな視点も外せません。お二人は細かい種も取りこぼすことなく、さらに全体も見ながら科学的知見に基づいて行政的指針に則った発信をしています。

 琉球大学の久保田康裕先生は、大学発スタートアップのシンクネイチャーを立ち上げ、生物多様性の見える化アプリなどを開発しています。研究と社会活動の両方を試みる取り組みはとても勉強になります。

 島谷幸宏先生(熊本県立大学)は河川工学の専門家。その立場から、生物の生息地の再生につながるような多自然川づくり、生物多様性に配慮した流域治水などに貢献しています。

 続いて、生物多様性の主流化という点で活躍を期待しているのが、環境系エンターテイナーのWoWキツネザルさん、YouTubeチャンネル「マーシーの獲ったり狩ったり」のマーシーさん、テレビ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」に出演中の桝太一さんです。さかなクンもまさにパイオニアとしてそういう役割を果たしてきた人物ですが、科学的知見をベースに、説教がましくなく、楽しくフラットな情報発信をしている方々です。

 これは環境問題の難しさでもありますが、生き物を滅ぼしたくて滅ぼしている人というのはいません。ダムの造成や農地整備で生き物のすみかがなくなることはありますが、ダムや農地も社会にとって必要なもの。関係各所と落としどころを探りながら合意形成をしていくわけですが、そのためにも、まずは生物多様性の大切さを広く知ってもらう必要があります。研究で得られた知識を一般に翻訳して伝える、つなぐ役割をする彼らのような存在は欠かせません。

 最後に、実践的な活動で評価したいのがNPO法人生態工房(理事長:片岡友美/事務局長:佐藤方博)。池の水を抜く「かいぼり」によって水辺の生態系を再生する活動を続けています。

 一般社団法人Change Our Next Decadeの矢動丸琴子さんはCOP15にも参加し若者の立場から自然共生社会の実現を訴えています。若い人が自分ごととして伝えてくれるのは心強く、応援したいです。

 私の専門は淡水魚や水生昆虫です。子どもの時から各地を回って虫や魚を捕っていますが、住んでいる九州でもこの20年で急激にゲンゴロウやタナゴの仲間などが減りました。かつて九州各地にいたゲンゴロウは、現在では2地域でしか生き残っていません。有明海周辺で日常的に食されていたアゲマキという貝は、いまや幻の食材です。でも、生物資源は枯渇資源である石油などと違い、一旦減っても、減った原因を解決すればまた増やすことができます。

 生き物を食べずに生きている人はいません。生物多様性がもたらすさまざまな利益は、私たち全員が享受しているものです。

■オイカワ丸(中島淳)さんが選ぶ10人

五箇公一 国立環境研究所

西廣淳 国立環境研究所

久保田康裕 琉球大学理学部教授

島谷幸宏 熊本県立大学特別教授

WoWキツネザル 環境系エンターテイナー

マーシー YouTuber

桝太一 タレント

片岡友美 認定NPO法人生態工房理事長

佐藤方博 認定NPO法人生態工房事務局長

矢動丸琴子 一般社団法人Change Our Next Decade代表理事

(構成/編集部・高橋有紀) ※AERA 2023年1月2-9日合併号

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