「淡水魚かよ」冷ややかな視線を横目に自慢の料理でグランプリ…琵琶湖の漁師、男泣き

 琵琶湖の漁師・中村清作さん(36)  滋賀県高島市マキノ町の海津漁港を拠点に、琵琶湖の魚を取る漁師だ。海の魚に比べ、淡水魚に苦手意識を持つ人は少なくない。「負の印象を一掃したい」と料理コンテストに挑むなど、湖魚の魅力のアピールに力を注いできた。

 現在、老朽化で倒壊の恐れもある海津漁協の旧倉庫の修復を目指している。「漁港を見下ろす湖魚料理の食堂や、漁業体験ができる施設に生まれ変わらせたい」。2024年のオープンを目指し、300万円を目標にクラウドファンディング(CF)で資金を募っている。

 幼い頃に両親が離婚。母の再婚相手が海津で2代続く漁師だった。「早く一人前になりたい」。高校を中退し、土木作業員や工員として働いたが、学歴で給料に差がつくことに納得できなかったこともあり、長続きはしなかった。

 挫折感から何も手に付かず、家でゴロゴロしていた20歳の春、母に一喝された。「お父さんの仕事を手伝え!」。この一言が転機となった。

 渋々、魚を網から外す父の作業を手伝った。やがて漁船に乗るようになり、父が湖に網を仕掛ける姿を見つめた。「最初は嫌々だったのに『自分も網を入れたい』と好奇心が湧いてきた」

 大漁に恵まれ、工場勤務の時より収入も良かった。「今度こそ、努力が報われるかも」。天候や波の状況で魚の動きは日々変わる。網の種類や入れる場所を夢中になって試行錯誤した。「毎日が腕試しのようで面白く、失敗しても駄目な理由を真剣に考えた。言われるまま動く『サラリーマン漁業者』から、真の漁師に近づこうと思った」と振り返る。

 だが、漁で成果を上げるにつれ、気になったのが「淡水魚は、ちょっとね」という消費者の反応だ。「海の魚と遜色のないおいしさなのに……。何とかイメージを覆したい」。その機会は16年11月に訪れた。

 東京・日比谷公園で開かれた、全国の漁師が自慢の魚料理の味を競う「第4回Fish-1グランプリ」。書類選考を通過した6組の料理を一般の人が食べ比べ、投票でグランプリを競う催しだ。

 同じ悔しさを感じていた旧知の料理人や流通業者らと組んで出場。4時間で1000食の完売を目指し、レシピを練りに練って「天然ビワマスの親子丼」を出品した。

 脂ののったビワマスの刺し身をご飯の上に盛り、煮切りしょうゆと昆布に漬けた腹子をふんだんに散らす。てっぺんに添えた細切りの大葉が、香りと色合いのアクセントだ。

 「淡水魚かよ」。ライバルの冷ややかな視線を感じたが、売り始めると客足が止まらない。2杯、3杯とお代わりをする人もおり、約2時間半で完売した。結果は堂々のグランプリ。「周りも巻き込んで頑張ったかいがあった」。表彰式では男泣きした。何より、琵琶湖の魚が認められたことがうれしかった。

 改修を目指す旧倉庫は、約80年前に建てられ、40年余り水揚げ施設として使われていた。数年前に新しい施設ができたため、役目を終えた。

 「解体にもお金がかかる。それなら、気軽に漁港に来て、湖魚を食べられる環境づくりに生かしたい。多くの人に琵琶湖の漁業を知ってもらい、漁師も元気になる施設に」と夢を膨らませている。(渡辺征庸)

中村清作 高島市マキノ町在住。2013~18年に県漁連青壮年会の会長を務め、20年には約1万1000人が所属する全国組織「JF全国漁青連」の会長理事に就任した。内陸県の漁業者が会長に就くのは初めてという。CFは31日まで受け付けており、寄付額に応じ「冬のお魚セット」などを返礼品に送る。詳しくは仲介サイト「キャンプファイヤー」。サイト内のキーワード検索で「海津漁港」と入力すると詳細が表示される。

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