池の水を抜き魚と格闘! 〝泥臭く〟挑む高専生

 池の水を抜く「かいぼり」が近年ブームとなっている。だがそれは本来、外来種駆除のために行われてきたことではない。江戸時代をピークに、稲作をはじめとする農業用水の貯水池として造成されたため池は、現在も全国に約16万カ所ある。

 かつては冬になると、水漏れやひび割れがないか点検するため、水を抜き、池を干した。そして、この時に取れる鯉などの魚は貴重なたんぱく源として重宝され、掻き出した泥も肥料として農地へ運ばれた。昭和30年代までは恒例行事として見られた光景だ。

 現代社会にすっかり取り残され、循環の滞った池は、生活排水などの流入でさらに富栄養化が進み、強烈な悪臭を放つようになった。兵庫県はため池の数が2万4400カ所と日本一多い。なかでも明石市を含む東播磨地域は最大の集積地で、宅地開発に伴い、悪臭問題も深刻化している。

 そこで、県からの要請を受け、2009年から「ため池プロジェクト」に取り組んでいるのが明石工業高等専門学校建築学科の平石年弘教授だ。環境工学の専門家であり、においの研究者でもある。

 平石教授は学生たちを巻き込みながら、実践と研究の両面からアプローチを続けてきた。実践とはすなわち、長年放置された池で、かいぼりを復活させることだ。すでに富栄養化した池の水を浄化するには、生物量を減らさなければならない。

 特に鯉は繁殖力が強い上、餌を探しながら泥を攪拌するため、富栄養化を招く大きな要因となっている。泥に足を奪われながら魚を追う作業は、まさに体力勝負。魚1匹で10キロを超える大物もいる。高齢化が進む中、学生のマンパワーが歓迎されるのは想像に難くない(とりわけ運動部が大活躍!)。

 問題は、かいぼりの後だ。多い時には一度に8トンもの魚が引き上げられる。その処理に頭を抱えたのだ。平石教授は広島県内の水産会社にフィッシュミールの原料として引き取ってもらえるよう活路を開拓。しかし水産会社にも難色を示されたのが、カメだった(特に外来種のミシシッピアカミミガメが多い)。固い甲羅の粉砕処理が難しく、可食部も少ない。フィッシュミールへの混入も問題となる。

 やむなく焼却処分されるのが現状だが、命あるもの、なんとか有効活用できないか。そこで平石ゼミでは学生の卒業研究として「カメの堆肥化」に取り組んできた。実際に、東播磨県民局や在来種の保護活動を行う団体と共に、かいぼりした池の近くで堆肥の山を作り、発酵の条件を整えることで堆肥化に成功している。

 もう一つの課題は、かいぼり前にあった。魚を運ぶコンテナ車は何台手配すればよいか。人手はどのくらい必要か――。実施にあたり、ため池を管理する農業組合や県との調整も学生が主体となって進める中、事前にその池の状態を把握したいというニーズが出てきた。

 そこで、池の生物量を予測するシミュレーションに取り組んだのが、2018年度から2年間、専攻科生として在籍していた船引厚志さんだ。「まさか、ため池の研究をするとは思いませんでした」。

 そう語る船引さんだが、自身も2年間で10回以上かいぼりに参加し、行政や組合の人たちと汗を流してきた。研究室に戻れば、パソコンの前で計算式と睨めっこの日々が続いた。

「先行研究も、シミュレーションに必要なデータもほとんどなかったので、まずデータ集めに苦労しました」と船引さん。各地のかいぼりに参加しては、池の周辺環境やかいぼりの実施頻度(前回からの経年数)を確認し、捕獲した魚類の量を種別に測定するなどして、さまざまなデータを集めていった。そのデータを整理し、ため池の生物量と相関のある指標を絞り込んでいった。

現場の観点を重視し一次方程式に落とし込む

 前述の通り、池の水の栄養度が生物量に直結することは自明だ。だが、この栄養度の判定が一筋縄ではいかなかった。水質調査では窒素やリンの濃度を測定するのが一般的だが、測定する時期によって変動もあり、記録のない池も多い。指標とするには不十分と判断した船引さんは、水の色、池周辺の植生、地形から、栄養度の概算を試みた。

 ため池には、地形によって「皿池」と「谷池」の主に2種類があり、特に皿池は平地に多く、水深も比較的浅いため富栄養化しやすい。また、水辺植物による水質浄化も間接的なファクターとなる。

 最終的に船引さんは、判定した栄養度と、ため池の貯水面積(水量)を指標として抽出。栄養度に、貯水面積をかけ合わせた「総栄養量」をxとし、「推定の生物量」yを求める式(y = 0.02 x + 31キログラム)を導いた。中学生で習う簡単な一次方程式に落とし込んだのだ。

「本来なら、より多くのデータで精度の高いシミュレーションをするのが理想ですが、1キログラムの違いを知るより、大まかでも簡便に推定できることを重視しました。卒業研究として、一定の学術成果も求められますが、研究成果を地域の課題解決につなげるには、現場で利用してもらいやすいツールに落とし込むことが必要です。

 この成果を利用するのは高齢の方々が多いと予想されたので、ため池フォーラムで発表した際にも、生物量を推定する手順を4段階に簡略化して示しました」。

 努力の甲斐あって、悪臭の苦情も年々減ってきているという。しかし、かいぼりを巡ってはまだまだ議論を要することもある。一部では、別の池に捕獲した生物を移すことも行われているが、それでは根本的な解決にならないと、現在の推定量をもとに将来を予測し、今、必要とされる管理を提案する場面もあった。「データを示すことが対話の糸口になった」と船引さんは振り返る。

 人の手によって作られた二次的な自然を維持するには、やはり人の手が必要だ。ため池はビオトープとして、生物のすみかとなり、人々の憩いの場でもある。同時に、降雨時の水量調整や、かいぼりのように地域の伝統を育む多面性がある。しかし豪雨や地震により老朽化したため池が決壊するリスクもあり、維持管理の重要性が増している。

「リアルな学び」を重視

 明石高専では、ため池以外にも竪穴住居の復元など地域と連携した独自のプロジェクトを進めている。そこには学生のコンピテンシー(高い成果につながる行動特性)を高める狙いがある。実は、全国の高専の中でも進学校として知られる明石高専。卒業後は大学へ編入学する学生が過半数以上であり、船引さんも現在は東京大学大学院に進学している。

 一方で、最近の学生の傾向として「いわゆる勉強はできても、自立、協働、創造といったコンピテンシーが弱い」と平石教授。社会に出れば、年齢も専門も関係ないように、学科・専攻を跨ぎ、教員と学生の垣根も取っ払った横断チームでプロジェクトに取り組む「Co+work(コ・プラスワーク)」という授業カリキュラムを導入している。

 その成果は、コンピテンシーを測るPROGテストの結果で数値的にも表れているが、何より、学生のうちから価値を生み出す側になろうと挑むことが、高専生を逞しくしている。「高専で過ごす15歳から20歳の5年間は最もポテンシャルが伸びる黄金期であり、非認知能力を高められる最後の砦」と語る平石教授。学生がのびのびと挑戦できる環境づくりを目指し、教員の挑戦も続いている。

堀川晃菜

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