本州から小型巻貝<カワニナ>の3新種を発見 琵琶湖の外で多様化?

 琵琶湖ではカワニナ属が大規模な種分化を遂げており、日本産22種のうち19種が琵琶湖水系固有の種です。また、琵琶湖を起源に持つ種のほとんどが琵琶湖水系のみに分布します。

 唯一、クロダカワニナは琵琶湖固有種に近縁でありながら、静岡県~岡山県の広い範囲に分布する種であり、先行研究で4つのグループに分けられることが知られていました。

 このたび、京都大学大学院と高知大学の研究グループはクロダカワニナの遺伝解析と形態解析を行い、本種の分類学的位置を再定義し、3種を新種記載しました。

純淡水に生息する小型の巻貝 日本産カワニナ属は22種

 カワニナ属は純淡水に生息する小型の巻貝です。

 近年、カワニナ属の分類学的研究が進んでおり、2021年には当時26年ぶりとなるカワニナ属の現生種、サザナミカナニナが新種記載。2022年にはトキタマカワニナ、チクブカワニナ、コンペイトウカワニナ、ケショウカワニナ、シノビカワニナの5種、2024年にはアザミカワニナがそれぞれ新種記載されました。

 カワニナ属は琵琶湖での多様性が高く、22種のうち19種が琵琶湖水系の固有種。22種のうち20種が琵琶湖で独立に多様化した2つのグループ(ヤマトカワニナグループ、ナカセコカワニナグループ)のいずれかに属することが分かっています。

例外的に広い範囲に分布する種<クロダカワニナ>

 ヤマトカワニナグループまたはナカセコカワニナグループに属するカワニナ属は琵琶湖水系のみに分布していますが、唯一、クロダカワニナは例外的に静岡県から岡山県にかけて広く分布することが知られています。

 さらに、クロダカワニナは先行研究で、4つの単系統群に分けられることが見出されていました。一方、これらの単系統群が独立種であるかは十分に評価されていなかったといいます。

本州37地点で探索→遺伝解析 3新種を発見

 今回、京都大学大学院と高知大学の研究グループが行った研究では、東海、近畿、中国、四国地方の37地点でクロダカワニナの探索を実施しました。

 そして、26地点で標本が収集され、クロダカワニナ118標本と先行研究のデータを合わせ遺伝解析。その結果、明瞭に識別される4つのグループが見出されたほか、4つ遺伝集団は形態的にも互いに識別されることが分かったのです。

 さらに、クロダカワニナ以外の3種は未記載種と考えられ、タジマカワニナ、サキガケカワニナ、ユメカワニナを記載しました。

真のクロダカワニナは?

 今回、クロダカワニナから4つグループが見出されましたが、どの集団が“真のクロダカワニナ”であるのかという問題が発生します。

 そこで、この研究の標本とクロダカワニナのタイプ標本の形態的類似性を測定が行われました。その結果、最も広い範囲に分布する種がクロダカワニナだということが判明したのです。

 クロダカワニナは東海、近畿、中国、四国地方に分布し、岡山県ではユメカワニナと同所的に観察されるようです。

クロダカワニナの分布拡大

 この研究では、クロダカワニナに4つのグループが見い出されただけではなく、これまで琵琶湖から湖外へ進出して形成されたと考えられていた本種の分布域が、実は中国地方に生息していた祖先が東へ分布を拡大したことで形成されたことが示唆されました。

 クロダカワニナの分布拡大の歴史についてはさらなる研究が必要とされているので、今後もカワニナ属の研究に目が離せませんね。

(サカナト編集部)

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