イタセンパラ、どこへ 淀川水系生息域で確認できず 2023年調査

 国の天然記念物の淡水魚・イタセンパラが、京都府内の木津川や桂川を含む淀川水系のうち唯一生息してきた城北(しろきた)ワンド群(大阪市旭区)で、2023年は確認されなかった。国交省淀川河川事務所が、同年12月に開いた流域委員会で報告した。06年から見つからなくなり、大阪府内の施設で飼育していた淀川産の成魚500匹を13年10月に放流。自然繁殖を繰り返し、18年の稚魚調査では2万767匹と過去最多に達して以降は減少傾向にあり、22年は80匹だった。【小泉健一】

 ◇保全活動続くも在来魚の減少深刻

 ワンドは川の中に造られた構造物に起源をもつ。長い時間をかけて本流沿いに水域を形成し、魚に適した場所となった。現在は淀川水系の京都府亀岡市以外に岡山県にしかいないとされる国の天然記念物アユモドキも生息するなど、かつては淀川のほとんどの在来魚は、城北ワンドにいるとされていた。

 しかし、在来魚の稚魚などを捕食するオオクチバスやブルーギルなどの外来魚が急増。イタセンパラなどのタナゴ類が産卵する二枚貝を、特定外来生物の哺乳類ヌートリアが大量に食べてしまう被害も増えている。洪水を防ぐための河川改修などで、水位変動や浅場が減少するなどの環境の変化も、在来魚の生息に影響を及ぼすようになった。

 このため、市民団体や大学、行政、企業など40以上の組織が連携する「淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク」(イタセンネット)が、4~11月に月2回の地引き網による外来魚の駆除や、水質悪化につながるワンド周辺の草や樹木の除去、周辺の清掃活動などを続けている。地引き網には例年イタセンパラの成魚もかかっていたが、23年はゼロだった。

 一方、淀川河川事務所は、イタセンパラを淀川の再生の象徴的な魚とし、在来種の生息環境改善のため、22年度に新たなワンドを整備。既存のワンドとつなげて水が循環するようにし、細かい砂を底に敷き、外来魚が入りにくいように水深も浅くした。同事務所河川環境課は「完成して1年しかたたず、現段階では効果を評価できない。タナゴ類の産卵場所となる二枚貝の繁殖状況などを一定期間モニタリングしてから、方針を決めていきたい」としている。例年通り、新年度にイタセンパラの調査を予定しているという。

 元中学理科教諭でイタセンネット事務局長の河合典彦さん(67)は、投網でイタセンパラを捕った中学生の頃から、淀川の変遷を見続けてきた。「城北ワンドで経験してきた半世紀以上の間に、アユモドキ以外にもイチモンジタナゴなどは完全に姿を消した。膨大な個体がいたフナ類やナマズのように、激減した在来魚が何種もいる。淀川を生物多様性に富んだ環境に戻すために、イタセンパラを通じ多くの人に関心をもってほしい」と話している。

 ◇イタセンパラ

 日本の固有種のタナゴ類で、体長は10センチ程度。城北ワンド群のほか、富山県氷見市、岐阜県の濃尾平野の河川にしかいないとされてきた。国の天然記念物と種の保存法の国内希少野生動植物種に指定。雌は秋にイシガイなどの二枚貝に卵を産み込み、ふ化した稚魚は中で越冬し、春に貝から泳ぎ出る。寿命は約1年。大阪府立環境農林水産総合研究所の生物多様性センター(大阪府寝屋川市)が1971年から、城北ワンド群付近で採取したイタセンパラを保存してきた。野生復帰を目指し2013年に飼育していた500匹を放流後、自然繁殖を繰り返し、22年には9回連続となる稚魚誕生を確認していた。

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