寒ブリシーズン目前の富山湾で、大漁が続いている魚。まだ聞きなれない方も多いと思いますがその名前は「シイラ」、水揚げ量は富山湾でトップ10に入り、2023年は過去最高に迫る勢い。ただ、漁師は困惑しています。取材しました。
11月16日、ひみ番屋街(富山県氷見市)の鮮魚店に並んでいたのは、地元で水揚げされた今が旬のズワイガニ、スルメイカに、カマス。そしてシーズン目前の立派なブリです。
ひみ水産・徳前康宏店長:
「本当はもっと揚がってくれたらいいんですけど…」
記者:
「ひみ寒ぶり宣言、ブリの到来待ち遠しい?」
ひみ水産・徳前康宏店長:
「そうですよ。やっぱり12月にブリが揚がらないとさみしいですよね」
そのブリの切り身の隣にズラリと並んでいたのが、シイラと呼ばれる南方系の魚です。
ひみ水産・徳前康宏店長:
「シイラはこっちの人は、あんまり食べる習慣がないというか…。あんまり…。水揚げはいっぱいあるんですけど…」
地元ではあまりなじみがないシイラとはどんな魚なんでしょうか。漁の現場を見に行ってみました。
記者:
「これが富山湾で大量に水揚げされているシイラです。1メートルほどでしょうか。重さもあってとっても迫力があります」
黄色い肌と張り出した頭が特徴的な「シイラ」。暖かい海で多く水揚げされる南方系の魚です。それが今、富山湾で大量に水揚げされているんです。
氷見市宇波漁港の漁師は…。
氷見市宇波漁港の漁師・曽場慎太郎さん:
「そんなに量がとれていたイメージは今までなかったですね。多くなってきているというか…」
2023年のシイラの漁獲量について専門家は…。
富山県水産研究所・阿部隼也研究員:
「10月が平年の4倍くらいの漁獲量になっていたり、シイラが非常にたくさんとれている」
富山湾のシイラの年間漁獲量の推移です。1980年代には多くても300トン程度しか水揚げされなかったものが、2021年には過去最高の1400トンに。2023年も過去最高に迫るペースで水揚げされていて、10月末時点ですでに1000トンを超えています。
富山県水産研究所・阿部隼也研究員:
「まだ11月、12月のデータが入っていないんですけど、今の段階でかなり漁獲量は多くて、(過去最高の)2021年に次ぐのか、あるいはそれを超えてしまうのかどちらかだと思います」
今月14日、氷見市沖でおこなわれた漁に同行取材しました。定置網にはこの日もシイラの魚影が…。
記者:
「仕掛けられていた網が徐々に上がってきました。魚体が見えてきます」
この日はブリの姿はあまりみられず、ひと際目立っていたのが小型のシイラです。乗船させてもらった漁船では10月末には一日で数十トンかかることもあったといいます。
富山湾に大量に現れたシイラ。
富山湾でおなじみのブリやホタルイカと比べると「富山湾のシイラ」については研究がはじまったばかりで、謎の多い魚だといいます。
富山県水産研究所・阿部隼也研究員:
「正直、シイラの漁獲量が変動する要因についてはまだわかっていないっていうのが実情としてあります。南方系の魚でですね、温かい水を好む魚なので、今年もかなり水温は高くなっているのでそういうような原因の可能性が考えられます」
富山湾でシイラの漁獲量が増加した背景には海水温との関係が考えられます。富山湾の海水温は年によってバラツキがあるものの、年々上昇傾向にあり、2023年9月には30℃に迫る水温に。 海水温の変化を直線で示してみると70年前と比べて1℃以上、水温があがっているのです。
富山湾で漁獲される魚にも変化がみられ、10月には南方系のバショウカジキが例年の15倍の62トン水揚げされました。
さらにこの日の船ではシイラ以外にも南方系とみられる魚が…。
シイラの漁期もずれていて、例年なら11月にはあまり取れないはずの大型のシイラの水揚げもありました。
網の上で激しく暴れまわるシイラ。 漁師にとっては少し困った一面も…。
氷見市の漁師・曽場慎太郎さん:
「水揚げする際に暴れて、ほかの魚を傷ませちゃったり、あとイカとか食べちゃったり、扱うのが大変っていうのもありますね」
シイラは扱うのが大変な上に浜値は大きいものでも1キロ200円、小さいものだと数十円程度。 1キロ3000円以上の寒ブリや1000円以上のアオリイカには遠く及びません。
氷見市の漁師・曽場慎太郎さん:
「温暖化とかいろいろ影響があると思うんですけど、本来もういなくなってもいい時期なので、いつまでいるんだろうという感じはしますね…」
漁のあとに漁師の曽場さんがシイラを捌いてくれましたが…。
記者:
「曽場さんはシイラは食べたことあります?」
曽場さん:
「ないですね。どう料理したらいいか、わからなくて食べてない。あまりスーパーとかでも売られていないので」
漁師も食べたことがないほど富山ではなじみのないシイラですが、ハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれ高級魚として扱われています。
シイラは、沖縄県では幸福を呼ぶ魚「フーヌイユ」とも呼ばれていて、約300年続くといわれる伝統の方法で漁が行われ、天日干しにされるなど地元で親しまれています。
高知県では、料理として食べる習慣はほとんどなかったということですが、最近になって夏場に取れるシイラに注目が集まり料亭で刺身やタタキ、冷しゃぶなどとして提供されています。
最近になって富山湾の魚種別の年間漁獲量トップ10に入ってきた富山湾のシイラ。おととしの漁獲量はマイワシとスルメイカに次ぐ3位でした。
阿部研究員は今後の可能性に期待を寄せています。
富山県水産研究所・阿部隼也研究員:
「近年、漁獲量が増加してきている魚でもあるので、魚種としては非常に重要になってくるんじゃないかなというふうに思います。今後ですね、食べられる文化が広まって、魚価も高くなっていけば、漁業者さんとしても喜んでいただけると思うので、生態の研究もそうですし、加工とかの利用に関しての研究も進めながら、利用について推進していけたらなというふうに思ってます」
海水温の変化とともに、シイラが、ブリやホタルイカ、シロエビのように富山湾を代表するような魚になる日が来るかもしれません…。