マナー悪化で漁港でのトラブル続発 釣り客は漁業関係者と共存できるか

 新型コロナウイルス禍で「3密」を避けられる趣味として釣りを始める人が増えた一方、ゴミの放置や無断駐車といった迷惑行為が問題となるケースが相次いでいる。漁業関係者とトラブルになることもあり、一般の人が釣りをするのを禁止する漁港も。一方で政府は地域振興のための漁港活用を図る。7月17日は海の恵みに感謝する「海の日」。漁業関係者と釣り客の共存の行方はどうなるのだろうか。

■絡まる釣り糸

「放置していた投げ釣りの仕掛けが漁船に巻き込まれた、と怒った釣り人が、船長に弁償させるトラブルが起きたんです」。静岡県西伊豆町の産業建設課主査、松浦城太郎さんは昨年6月の出来事を振り返る。

 伊豆半島有数の大きさを誇る伊豆町の田子漁港は、釣り客にも人気の釣り場だった。コロナ禍以降は釣り客がさらに増え、ゴミの放置などさまざまなマナー違反が増加。キャンプやバーベキューをする人も出始めた。6月の漁船とのトラブルが決定打となり、翌77月から全面的に一般の人の釣りを禁じた。

 日本釣用品工業会によると、令和3年の釣り関係の用具の国内出荷金額は、前年比15・8%増の1790億7000万円。2年連続で2桁台のプラス成長となった。

 日本釣振興会専務理事の下山秀雄さんは「コロナ禍で新たに釣りを始める人が増え、身近な釣り場として漁港に人が多く集まるようになった」と話す。それとともに各地でゴミのポイ捨てや無断駐車に加え、釣り糸が漁船のスクリューに絡んでしまうトラブルも増えるようになったという。

 このため田子漁港と同様、釣り客の立ち入りを禁じる漁港が相次いでいる。千葉県鴨川市の小湊漁港は漁業活動の支障になるとして、令和元年に関係者以外は立ち入り禁止に。福岡県新宮町の新宮漁港はもともと一般の人の釣りを禁止していたが、それでも釣り客が訪れるため、令和2年度からは1日8回、マイク放送で注意を呼びかけるようになった。

■漁業が優先、経済振興も

 あくまで漁業の拠点だった漁港は近年、多様な役割を期待されるようになっている。5月に成立した改正漁港漁場整備法は、観光客の増加や海産物の販売拡大を通じて地域経済の振興を図る目的から、漁港へのレストランや宿泊施設の整備を進めやすくした。

 こうした状況を受け、水産庁は6月、漁港を一般の人が利用する上でのルールやマナーを定めるための指針を示した。漁港は「漁業活動による利用が優先される」と明確に示した上で、「市民に海との触れ合いの場を提供する機能も持つ」と定義。釣りをはじめとするレジャーでの利用は漁業の支障にならない範囲に限るとするとともに、転落防止柵や救命浮輪の設置などの安全対策も例示した。

 田子漁港でも一般の人の釣りを禁止してから1年を経て、新たな試みが始まろうとしている。

 そもそも地元の人や子供たちまでもが釣りを楽しめなくなることは、漁業関係者も望んでいなかった。西伊豆町は条例を改正。漁港の釣り場予約サービス「海釣りGO」を通じて釣り客から利用料を徴収し、釣り場の維持管理とともに漁業にも還元する取り組みを、7月末から始める。(本江希望)

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