いきもの語り 池の水抜き都内絶滅の水草が約60年ぶりに復活 八王子・長池公園

 京王線南大沢駅(八王子市)の南東、町田市との境にある「長池公園」。管理事務所の役割を担う自然館で、水中から水面に向かって茎を伸ばす水草が育てられている。東北地方などでは食用にもなる「ジュンサイ」だ。隣では湿地を好む「ミズユキノシタ」の姿も。知識がなければ気づかないような植物だが、都内では約60年ぶりに復活した貴重なものだ。

 どちらも以前はどこででも見かけた植物だったが、都内ではため池の減少や水質の悪化によって激減。「昭和34年に長池の植物調査が行われたときは、ジュンサイもミズユキノシタも確認されていた」と長池公園の内野秀重園長(64)は説明する。当時の報告書では、長池は都内有数の水生植物の産地だと記されていた。

 長池は、公園となる前から農家や地元住民に守られてきた。下流には、後に築造された「築池(つくいけ)」もあり、内野園長は「長池の水を使わないように優先して築池の水が使われており、長池は特別な場所として扱われてきた可能性もある」という。どちらの池も今は公園内にあるが、かつてはさらに下流に農地が広がっていた。

 しかし42年、この地域が干魃(かんばつ)に襲われた際、築池に続いて長池の水も抜かれることになり、池の中の植物の多くが姿を消した。「水がなくなっただけでなく、既に外来種が入り込み、育ちにくい環境になっていたことも考えられる」(内野園長)。34年の調査が、都内でジュンサイとミズユキノシタの生息を確認した最後の調査となってしまった。

 それから半世紀以上を経て、池の周辺は住宅地に代わり、池と周辺の自然環境は公園として保護されるようになった。一方で、池の中には外来種のブラックバスやブルーギル、ウシガエルなどが増加。これらを駆除し、積もった落ち葉などを回収するため、令和元年、水を抜く「かいぼり」が行われた。

 バス110匹、ブルーギル395匹、ウシガエル24匹…次々と外来種が見つかった。ただ、内野園長は「水を抜けば魚はすぐ見つかるが、カメやザリガニは土の中に逃げ込むので駆除しきれなかった」と明かす。

 一方、池の底の泥にかつて繁茂していた植物の種などが残っている可能性を考え、翌年にかけて泥を掘って池の端に浅瀬を造成。しばらくすると、ジュンサイやミズユキノシタなどが姿を見せるようになった。

 ただ、ミズユキノシタは次々に増えたが、ジュンサイは簡単には増えなかった。「ザリガニは視界を確保するために水草を切る習性があるので、そのせいかもしれない」と内野園長。浅瀬では周囲を囲ってザリガニから守ることでジュンサイが増えるか試している。

 長池は現在、特別保全ゾーンとして保護されているため周囲は一部しか見ることができず、ジュンサイやミズユキノシタは自然館でのみ観賞できる。公園には八王子市全域から児童、生徒が遠足などで訪れる。「復活したジュンサイやミズユキノシタをはじめ、自然を守っていく大切さを伝えていきたい」と内野園長は話した。(橋本昌宗)

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