アマミノクロウサギ個体数回復、天敵のマングース駆除奏功…農産物の食害など新たな課題も

 鹿児島県の奄美大島と徳之島にのみ生息する特別天然記念物「アマミノクロウサギ」の個体数が急激に回復している。環境省の調査では、2021年度の推定個体数(中央値)は2万2382匹で、調査が始まった03年度(2620匹)の約8・5倍となった。天敵の特定外来生物マングースの駆除が進んだ成果とみられる一方、農産物の食害など新たな課題も出ており、地元では、対応に頭を悩ませている。(園田隆一)

 環境省はフンの数やカメラで自動撮影した動画などを基に調査。21年度は1万1549~3万9162匹が推定個体数の範囲とみられ、中央値は2万2382匹としている。

 推定個体数は年々増加しており、08年度に5000匹、16年度には1万匹を突破。03年度以降、年平均で1割以上のペースで増えている。

 主な要因とみられるのが、毒蛇のハブ対策として1979年に奄美大島に持ち込まれた特定外来生物マングースの捕獲が進んだことだ。マングースは期待されていたハブの天敵とはならず、固有種のアマミノクロウサギがマングースの標的となったことで、絶滅の可能性が高まった。

 このため、93年度から駆除が始まり、これまでに3万2000匹以上を捕獲した。2018年4月を最後に捕獲ゼロが続いており、環境省では早ければ23年度にも根絶宣言を出す方針だ。同じく捕食者となっている野生化したノネコについても捕獲や適正飼育の啓発が進んだことも奏功したとみられる。

 アマミノクロウサギは現在、レッドリストで絶滅危惧1B類(近い将来、野生での絶滅の危険性が高い種)に分類されている。環境省では増加を受け、将来的には、2類(絶滅の危険が増大している種)以下への引き下げも検討する考えだ。

 奄美大島と徳之島は21年、沖縄本島北部、西表島とともに世界自然遺産に登録された。野生生物の保護などを担う奄美群島国立公園管理事務所の阿部慎太郎所長は「在来種の生息状況の回復は、世界自然遺産の価値を維持・向上できたことを示す。今後も自然環境を温存していくことが必要で、島の自然をこれまで以上に大切にしたい」と話す。

 一方、個体数の増加に伴う課題も顕在化している。

 県によると、アマミノクロウサギの増加に伴って農作物への食害も相次いでいる。特に、かんきつ類のタンカンの産地である大和村に集中しており、生産者は幼木をかじられるなどの被害に頭を悩ませている。17年頃から被害が目立つようになり、21年度の被害額は521万円に上った。

 ただ、特別天然記念物であるため、捕獲や駆除はできない。地元では、防護柵で畑への侵入を防ぐなどの対策を施しているが、今のところ、防止効果は見えていない。県大島支庁農政普及課の川越尚樹課長は「生産者にとっては悩ましい問題。共存を前提に被害を減らしていきたいが、決定的な方法は見当たらず、今の対策を地道に進めるしかない」と話している。

◇アマミノクロウサギ=体長40~50センチで黒褐色の毛に覆われている。耳や足が短く、ウサギの仲間で最も原始的な姿をしているとされる。夜行性で、繁殖用や休息用の巣穴を掘って生活する。

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