ススキ消え、外来雑草繁殖 温暖化でシカ食害急増 兵庫・上山高原

 日本海に面した兵庫県新温泉町・上山高原にあるススキの草原が消え始め、外来種のダンドボロギクなどが生えだしている。専門家は近年急増しているシカの食害を指摘。さらにシカの急増には近年の積雪量減少が背景にあるという。これも気候変動の影響なのだろうか。標高900メートル前後の高原の生態系に起きつつある異変を追った。

 9月初め、両脇にススキの穂の海が広がる上山高原の一本道を抜けると、ワラビが生い茂る丘が見えた。山頂付近は茶色い枯れ草に覆われ、隙間(すきま)から白い綿毛をつけたダンドボロギクが伸びていた。「あー、ここまで生えとる」。NPO法人「上山高原エコミュージアム」の馬場正男事務局長(71)はため息をつく。先端がかじられたようなススキの葉のそばにはシカのフンが転がっていた。

 山頂付近は2020年7月、ススキの生え変わりを促すために草刈りをしたが、一向に成長しなかった。高原の野草を調査している武田義明・神戸大名誉教授は「ススキを刈った後に生える柔らかい芽をシカが食べた上に、群れが根を踏み荒らして傷めている」と指摘する。今では34・4ヘクタールあった草原の3分の1程度でススキが消え、代わりに綿毛の種で運ばれたダンドボロギクやワラビが生えた。どちらもシカは食べないという。

 ◇捕獲数6年で24倍

 ススキ消失は5年ほど前から少しずつ現れだしたという。一方、新温泉町で有害鳥獣としてのシカ捕獲は15年度の58頭から21年度は24倍の1378頭まで増えた。県によると、今まではハチ高原などスキー場もある山地で最大2メートル超の“雪の壁”が県中央部から日本海側へのシカの侵入を防いでいた。だが、近年は積雪量が減少傾向にあり、山は雪に覆われていても一部の沢では雪が解け、シカが越冬できるようになったことが増加の一因と考えられるという。

 エコミュージアムで上山高原の生態系を調査している山本一幸さん(63)によると、ススキより先にオミナエシやフジバカマなどの野草が消えた。蜜を吸うアサギマダラなどのチョウや昆虫もいなくなった。「被害が急拡大したのはここ2年ほど。ふもとでワナなどが仕掛けられるようになり、高原に上ってきたのではないか。このままではススキ草原が消えてしまう」と危機感を訴える。

 ◇県も被害を調査

 上山高原のススキは20年かけて復活・再生されたものだ。1960年代までは地元の農家が農耕用の牛の放牧地として山焼きをしてササや木が侵入するのを防ぎ、ノウサギやヘビが生息する草原は国の天然記念物のイヌワシの格好のえさ場になっていたと考えられている。農業の機械化で農家が牛を飼うのをやめたため、牧草地はササや木が生い茂った。

 2002年、往時の風景を取り戻し、イヌワシのえさ場を作ろうと、地元住民やボランティアらが山焼きや草刈りを始めた。約5年後にススキが生えだし、今も毎年草刈りを続けている。だが、ノウサギの餌にもなるススキをシカが食べ尽くせば、ノウサギは減ってしまう。イヌワシは県北部で2つがい程度しかおらず、えさ場作りは重要課題だ。

 県もシカの食害の生態系への影響を調べるため、5月に高原の2カ所にシカ柵を設置。武田さんによると、シカ柵の中ではなくなったと思われていた野草も生えているが、それ以外では野草の花はシカに食べられてほとんど見られないといい、県も今後の対策を検討している。【井上元宏】

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