オオサンショウウオ絶滅危機 広がる日中交雑種

日本固有種で国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオと、中国の外来種との交雑種が広島市佐伯区の八幡(やはた)川で見つかったと、広島市などが発表した。これまで関西や岡山でも交雑種は見つかっているが、広島では初めて。今回見つかった5匹以外にも交雑種がいる可能性は高いといい、関係者は「在来種の存亡にかかわる大きな問題」と指摘している。

■交雑種5匹を捕獲

日本固有種のオオサンショウウオと、中国の外来種チュウゴクオオサンショウウオとの交雑種が見つかったのは、広島市佐伯区の八幡川。

広島市などの説明では、5月13日に地元住民から八幡川付近の道路でオオサンショウウオを発見したとの情報が寄せられた。

オオサンショウウオの研究者である広島大総合博物館の清水則雄准教授(46)が、メールで送られてきた画像を確認したところ、見た瞬間に「怪しい個体と気付いた」という。

日本固有種は体色が薄めの茶色で黒い大きな斑紋がたくさんみられるが、発見された個体は「全体が薄い模様」だった。

個体差はあるが、一般的にチュウゴクオオサンショウウオは、体色が濃い茶色で、薄い茶色の斑紋があり、体長も日本固有種より大きいのが特徴だという。清水准教授は「(交雑種は)いないと思っていたのでとても驚いた」という。

すぐさま許認可を取り、その日の夜に清水准教授と安佐動物公園の職員が駆けつけて八幡川付近を捜索。疑わしい7匹を捕獲し、広島大両生類研究センターで遺伝子鑑定を行った結果、5月23日に、7匹のうち5匹が交雑種と判明した。

今回、判明した交雑種はメス4頭、オス1頭で、体長は63・7~79・5センチ、体重は2・07~3・54キロ。いずれも日本固有種と中国種から生まれた第1世代とみられ、30歳以上の可能性もあるという。

日本固有種の消滅も

八幡川に交雑種がいた経緯は不明だ。チュウゴクオオサンショウウオはワシントン条約で商取引が禁止されていることから、現在は持ち込まれることはないと考えられる。ただ、禁止される以前は漢方薬や食用で輸入されていた時期があり、一部が何らかの形で逃げ出して野生化した可能性があるという。

広島県で交雑種が見つかったのは初めてだが、これまでには京都、三重、奈良、岡山で確認されており、清水准教授も「広島県にいつ入ってくるのか危機感はもっていた」という。

「非常に驚くべき結果。さらに大型の個体が見つかったことから、ひょっとしたら昔から入っていた可能性も考えられる」とも。

清水准教授らは今後も八幡川周辺で交雑種の分布を詳しく調べていく方針だ。

西日本豪雨でも被害に

オオサンショウウオの寿命は100年以上ともいわれるが、シーボルトがオランダへ持ち帰り、飼育した個体が約51年生存し、飼育下ではこれが最長とされている。生息するのは西日本の限られた川だけで、各地で大切に保護されてきた。

広島でもオオサンショウウオは大切に保護され、見守られてきたが、4年前には試練に見舞われた。西日本豪雨だ。「豪雨後に約8割がいなくなってしまった」という。

清水准教授らが東広島市を流れる椋梨(むくなし)川流域などの調査を始めたのは平成23年。椋梨川では平成30年までに55匹にマイクロチップを埋め込み、成体を識別していたが、西日本豪雨で河床ごと流出し、多くのオオサンショウウオが下流に流され、行方不明になった。

豪雨直後から、清水准教授らは市や広島大、地元住民らの協力を得て、下流域も含めて10キロ以上にわたって緊急調査。川は壊滅的に崩壊していたが、約4割のオオサンショウウオを救出し、生息に適した上流域に戻したという。

■外見上の区別は困難

今年4月には、広島市の中心部を流れる元安川の原爆ドーム対岸で体長1メートルほどのオオサンショウウオ1匹が泳いでいるのが見つかり、話題となった。

保護されたが、まもなく死亡。わずかな期間ではあったが、このオオサンショウウオは「モトヤス」と名前まで付けられ、地元の人気者になった。

今回、交雑種が確認されたことについて、日本オオサンショウウオの会の桑原一司博士(72)は「岡山で見つかっており、広島で出てもおかしくはなかったが、非常に驚きであると同時に恐怖も感じる。あちこちで見つかれば、日本の固有種の消滅につながっていく。何が何でも食い止めたい」と語る。

また、国の特別天然記念物に指定されているのは日本固有種だが、広島市などによると「日本固有種と交雑種とを外見上で見分けるのは非常に困難」と指摘。

最終的にDNA鑑定をしなければ、判別はできないことから、清水准教授は「発見しても、捕獲したり持ち帰って飼育したり、別の川に放流したりしないようにお願いしたい」と注意を呼びかけている。(嶋田知加子)

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