琵琶湖で絶滅危惧の真珠貝、復活計画 東日本に移した固有種戻す

 琵琶湖・淀川水系の固有種で絶滅危惧種の大型二枚貝、イケチョウガイの種の保全を図るため、滋賀県水産試験場(水試)は東日本に生き残るイケチョウガイを琵琶湖に戻し、繁殖させる取り組みを始めた。琵琶湖・淀川水系での生息は近年確認されておらず、成功すれば生物多様性の復元に近づく。イケチョウガイは淡水真珠の母貝として活用でき、県は真珠産業再興にもつなげたい考えだ。

 イケチョウガイは最大30センチ。琵琶湖では約90年前から真珠養殖に使われてきた。1960~70年代には真珠養殖を目的に全国の湖などに移されたとされる。現在野生の集団は東日本の一部でしか確認されていないという。

 同水試は今年4月下旬、東日本の湖からイケチョウガイ40体を現地漁協の許可を得て持ち帰った。元々は琵琶湖産で、霞ケ浦(茨城県)経由で50年以上前に移されたイケチョウガイの子孫とみられている。同水試の佐野聡哉主任主査は「現在琵琶湖に野生のイケチョウガイはほぼいないとみられる。人為環境下で遺伝資源を保全するだけでも価値がある」と、琵琶湖に戻す意義を強調する。

 入手したイケチョウガイは平均で大きさ約22センチ、重さ約1・2キロ。滋賀県彦根市の琵琶湖岸にある同水試で飼育されている。佐野さんは繁殖の可能性を五分五分とみていたが、5月19日から約1カ月で赤ちゃんである幼生の放出が12回確認され、約8万個の稚貝が育った。今年は計約10万個の稚貝を確保できる見通しという。

 稚貝は同水試のほか、真珠養殖業者が県内5カ所で飼育している。稚貝を生存させるのは容易ではなく、佐野さんは「5000個を2~3センチの大きさにしたい」と言う。3年たてば約10センチに成長し、繁殖する可能性も出てくる。

 現在、琵琶湖の真珠生産に使用されている母貝は、中国産のヒレイケチョウガイと交雑した養殖品種がほとんどとされる。滋賀県によると、80年代以降、在来種は原因不明の成長不良や突然死に見舞われた。そのため90年代初頭、霞ケ浦から母貝を移入したが、多くは交雑種だったとみられる。

 水試は本来の系統の種を琵琶湖に戻したい考えだ。しかし、佐野さんは「繁殖可能なイケチョウガイを今の真珠養殖場に持っていくと交雑してしまう。養殖系統の貝がいない水域を見つける必要がある」と述べ、種の保全に最適な生育場所を探す計画だ。

 佐野さんによると、養殖品種の母貝1体で生産できる真珠は数個。だが、厚みがある在来種は約10倍の数を生産できるメリットがある。真珠を生産した後、再び母貝として利用できる回数も多いという。在来種の真珠は養殖品種に比べ白色が強いという特徴もある。

 イケチョウガイを利用した淡水真珠養殖は30年に琵琶湖で成功、35年に本格化した。70年には真珠生産量が年間6トンを超えた。2020年の琵琶湖の真珠生産量は14キロと最盛期のわずか0・2%になっている。【庭田学】

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