もはや「環境テロ」…外来種を池に放つ、違法な「密放流者」との知られざる戦い

地域の環境や生物多様性に多大な影響を与える「侵略的外来種」。日本でも貴重な在来種や絶滅危惧種が脅かされる事例が多々見られる。テレビ番組『池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京系)にも出演している久保田潤一氏の新刊『絶滅危惧種はそこにいる』から、そんな侵略的外来種を意図的に池に放つ「密放流者」との知られざる戦いについてお伝えしよう。

外来種「御六家」が勢揃いする池

 東京都には、都立公園(東京都建設局所管)が82か所ある。その中でも最大の公園が、狭山丘陵にある野山北・六道山公園である。この公園の中に桜沢という谷があり、そこに桜沢池という池がある。

 これまでに僕たちが行った桜沢池の調査で、11種の生物が確認されているが、その顔ぶれに危機を感じる。在来種はドジョウ、ニホンスッポン、ニホンマムシ、アズマヒキガエル、スジエビ。特にアズマヒキガエルの大繁殖地になっていて、春は水際がオタマジャクシで真っ黒に染まるほどだ。ニホンスッポンとニホンマムシは絶滅危惧種だし、これらを見るとむしろ良い池だなという印象を受ける。

 問題は外来種だ。オオクチバス、ブルーギル、コイ、アカミミガメ、ウシガエル、アメリカザリガニの6種類で、いずれも「侵略的外来種」と位置づけられるものだ。日本中、どこの池に行ってもどれかは出現することから、僕は「外来種御六家」と呼んでいるが、その全種がこの池には勢揃いしている。

 その背景として問題なのが、バス釣り人の存在だ。都立公園では、一部の例外を除いて釣りを禁止しているが、桜沢池ではバス釣りをする人が後をたたない。釣る人がいるということは、池に放流する(した)人がいるということだ。

 バスやギルを捕獲しようと定置網やもんどりを仕掛けたこともあったが、当然のことながら採り尽くすことはできない。根本的な解決のために、2018年12月15日にかいぼりを行った。

 採れる魚は、多くがその年に生まれたブルーギルだ。掬うたびにギル、ギル。最小のものは10円玉より小さい稚魚だ。明らかにこの池で繁殖している。なんと全部で2831匹も採れた。

外来魚を放つ「密放流者」の存在

 かいぼりが終わった後、約2か月は池干し状態を維持した。池の中にブルーギルの稚魚の取り残しがいたとしても、すっかり絶えたことだろう。また、池底に蓄積していた窒素やリンが酸化・ガス化するなどして富栄養化が改善されているはずで、池の水の透明度が向上することが期待できる。

 3月中旬にまとまった雨が降り、あっという間に桜沢池の水位は回復した。これを受け、飼育していたコシアキトンボのヤゴとドジョウを3月20日に池に放流した。

 「これで桜沢池は生まれ変わるぞ」

 そう思っていた矢先のことだった。5月の終わり、すっかり平和になったはずの桜沢をパトロールしていたパークレンジャーより、緊急連絡が入った。

「桜沢池を大きなバスが泳いでいる。少なくとも2匹いる」

 やられた、密放流だ。かいぼりでオオクチバスがいなくなったことを知ったバス釣り人が、またこっそりと放流したのだろう。あれだけみんなで頑張ったことを一瞬で無にしてしまう、その行為をいとも簡単にする人がいることが衝撃だった。

 また、オオクチバスは特定外来生物に指定されているから、放流は犯罪だ。個人がこの罪を犯した場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金となる。

 ショックを受けつつも、ボヤボヤしていられない。5月の終わりは、オオクチバスにとっては繁殖最盛期に差し掛かっているから、もし見つかった2匹がオスとメスだったら、繁殖する可能性がある。そうなれば、せっかくの努力がいよいよ本当に無駄になってしまう。

 このころ、後輩の舟木匡志くんが、僕に代わって狭山丘陵の保全リーダーとなっていた。学生のころから溜め池を研究し、土木的な知識も合わせ持っているので、かいぼりにはうってつけの人物だ。彼は即座に手を打った。

「釣って駆除しよう」

 釣り経験のあるスタッフに指示し、すぐに2匹を釣り上げた。しかし翌日には、オオクチバスの成魚がもう1匹泳いでいるのが確認された。2匹だけではなかったのだ。慌てて再び釣ろうとするが、今度は釣れない。まずい。焦りが募る。

「環境テロ」には絶対屈しない

 そしてその3日後、恐れていたことが現実になってしまった。桜沢池の中に、オオクチバスの稚魚が群れで泳いでいるのが発見されたのだ。

 孵化(ふか)までの日数がおおむね1週間ぐらいであることを考えると、2匹を釣り上げたときにはすでに産卵は終わっていたことになる。環境保全的にも、精神的にもダメージが大きい。密放流を「環境テロ」と表現するのをときどき耳にするが、まさにそのとおりだなと実感する。

 しかし舟木くんはあくまで前向きで、全然へこたれていなかった。

 「地引網を使って、繁殖した稚魚をまとめて捕獲できるかやってみます。それでダメなら、池の水をもう1度抜いて駆除しましょう。あわせて、池の中にネットを張って、釣り針が引っかかるようにしてみます。釣りがしづらくなれば、釣り人も再放流を諦めるかもしれません。それから今回のことを警察に相談して、それを看板に書いて池の前に立てようと思います」

 矢継ぎ早に新たな対策案を持ってきた。

 「いいね、全部やろう」

 地引網は、たっちゃん池の魚類調査で使おうと思って特注で作ってあったものだ。この捕獲はある程度成功し、3000匹以上を駆除することができた。ただ、その後もタモ網を入れるたびに少数が採れる状況が続き、ゼロにはなっていないことがわかった。

 やはり水を抜くしかあるまい。かいぼりでは池の水を電動ポンプで抜いたが、今回はサイフォンの原理で抜いてみることにした。これも舟木くんが地形を見て立てた作戦だ。時間はかかったが、池の水は見事に抜けて、オオクチバスの稚魚をすべて駆除することに成功した。

 「でも、また放流されるんじゃないだろうか」

 かかわっているみんなが、そう考えずにはいられなかった。だが、いいのだ。放流されたらまた水を抜いてすべて駆除する。何度でも。そういう姿勢を見せることが、密放流の防止につながっていくはずだ。

 池の水が抜けているうちに、釣りを邪魔するためのネット張りも実行。釣り人の気持ちになってみると、買ったばかりの高価なルアーを失うわけだから、これは嫌だろう。効果があるかもしれない。

 警察にも相談し、パトロールを強化してくれることが決まった。かいぼり後に密放流が行われたこと、それが犯罪であり警察に相談していること、密放流を目撃したら情報を寄せてほしいこと、これらを看板にしたためて、桜沢池の前に立てた。

 その後、新たな密放流は確認されていないが、水中に張ったネットにルアーが引っかかっていたことが数回あったので、おそらくバスが駆除されたことを知らずに釣りに来た人がいたのだろう。

 また、設置した看板が壊されていたことが3度あり、我々の外来種駆除の取り組みに腹を立てている人がいることもわかっているので、油断できる状況ではない。今後もスタッフみんなで力を合わせ、桜沢池をよみがえらせる努力を続けていく。

久保田 潤一(特定非営利活動法人NPO birth 自然環境マネジメント部部長・技術士)

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