「麻薬王のカバ」、首領射殺後に4頭から80頭に…「客寄せ効果」もあり避妊薬で数制御

 南米コロンビア北西部で、外来種であるカバが繁殖し、避妊薬で数をコントロールする取り組みが始まった。「麻薬王」と呼ばれた男のもとで飼育され、野生化したカバ。地域の町おこしに一役買っていることもあり、人との共存の道が探られている。(コロンビア北西部プエルトトリウンフォ 淵上隆悠、写真も)

 プエルトトリウンフォにある巨大テーマパーク「アシエンダ・ナポレス」の園内で、子どもたちの歓声がひときわ大きく上がる場所がある。「麻薬王のカバ」がいる湖だ。

 愛称は、1980年代に世界最大の麻薬組織と言われた「メデジン・カルテル」の首領パブロ・エスコバルに由来する。この地に私設動物園を設け、米国からオス1頭、メス3頭のカバを取り寄せた。

 エスコバルが93年に治安部隊に射殺された後、当局は4頭を放置。自然に適応したカバは繁殖し、カリブ海に注ぐマグダレナ川流域を中心に約80頭まで増えた。このうち15頭ほどが日中、塀のないテーマパークの湖に姿を見せる。

 野生のカバは本来、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南にしか生息しない。1月に発表された論文によれば、このままではこの地域で2034年頃に1400頭前後まで増えるという。生態系への影響は必至で、駆除の必要性が指摘された。

 数が増えれば、人に危害を加える危険性も高まる。10月31日に自宅近くの別の湖で釣りをしていた男性(32)は、水面から突然顔を出したカバに襲われた。16日後に退院したが、身を守ろうとして前に出した左腕には痛々しい傷痕が6か所残る。男性は「医師から全治2年と言われた。力が入らず、建設の仕事は休むしかない」と嘆く。

 事態を重く見たコロンビア政府は、環境保護に取り組む外郭団体「コルナレ」を通じて対策に乗り出した。米農務省から提供を受けた避妊薬「ゴナコン」をカバに投与するプロジェクトを開始。馬や鹿などでは性別に関係なく効き、継続的な投与は必要だが、去勢や避妊の手術に比べて安価だ。銃で打てるため、安全面でも利点がある。

 すでに34頭に最初の投与が終了した。排せつ物のホルモン量を調べるなどして追跡調査し、効果を確認する。コルナレのデビット・エチェベリさん(37)は、「無秩序な繁殖を抑えることができれば、生物の多様性維持や人との共存も可能になる」と語る。

 駆除ではなく、数をコントロールする方針には、地域住民からも歓迎の声が上がる。広場ではカバの像が置かれるなど、町おこしにつながっているからだ。アシエンダ・ナポレスでガイドを務めるオスカル・モンサルベさん(51)も、「カバがいなければここには誰も来ない」と訴える。

 「カバは悪くない。だって、私が生まれる前からここにいたんだから」。カバに襲われた男性も擁護の声を上げた。

+Yahoo!ニュース-国際-読売新聞オンライン