驚異の繁殖力で食い荒らす外来カミキリ 果樹王国・和歌山が駆除に本腰

 大繁殖しバラ科の樹木を枯死させる恐れのある特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」駆除に向け、果樹王国・和歌山県が本格的な研究に着手した。環境省の許可を得て今年3月、専用の屋外実験室を果樹生産地にある研究所内に開設。成虫が活動を始める6月ごろから農薬の有効性や防護資材の効果を検証していく計画だ。こうした専用の実験施設は全国的にも珍しいといい、県の担当者は「バラ科の果樹を守るため対策方法を確立したい」としている。(前川康二)


 ■自然に近い環境で
 クビアカツヤカミキリは中国やモンゴル、朝鮮半島などが原産地の昆虫。平成30年1月、外来生物法で特定外来生物に指定され、販売や飼育、運搬などが禁止されている。
 その駆除に向けた屋外実験室が今年3月、カキやモモなどの「フルーツ王国」をアピールする和歌山県紀の川市の県果樹試験場かき・もも研究所に完成した。
 駐車場の一角に20平方メートルほどの施設として開設。天井を含め、全体が目の細かい網で覆われている。内部への小動物などの侵入を防ぐためコンクリートで床を高くし、出入り口も鍵付きの2重扉にしてある。
 今後は、成虫を捕まえてこの実験室で飼育。果樹の成木も使い、農薬の殺虫効果の継続性や、表面に薬剤を塗るなどして産卵しにくくした防虫資材の効果などを検証していく。
 これまで研究所が屋内で実証してきた薬剤の散布効果の確認などを、屋外で実証できる利点があり、弘岡拓人研究員は「自然に近い環境で効果を検証できる」と今後の研究の進展に自信をみせる。
 ■被害拡大、廃園した果樹園も
 クビアカツヤカミキリの特徴は、強い繁殖力だ。雌1匹が日本の在来カミキリ類の10倍とされる約千個の卵を産む。成虫になると、すぐに繁殖を開始。幼虫は幹の深くに潜行するため、捕獲が難しい。現状では効果的な駆除方法は確立されておらず、被害を受けた果樹は根元から伐採するしかないという。
 一方で被害は全国に広がっている。
 環境省によると、国内では平成24年に愛知県で初めて確認され、たちまち全国各地に拡大した。大阪府では公園のサクラが枯死。徳島県では果樹園のモモが全滅し、廃園を余儀なくされた。
 和歌山県でも令和元年11月、大阪府に隣接するかつらぎ町のモモ農園で初めて被害が確認された。県によると、2年3月の時点で被害は7農地の計15本だったが、翌3年3月には51農地、計195本に急拡大している。被害地域も周辺の岩出市や紀の川市まで広がった。
 県の担当者は「(モモ生産地の)紀北地域全域で生息している可能性がある」と危機感を強める。
 さらに懸念されるのが、サクラやモモと同じバラ科で県特産のウメへの影響だ。主産地のみなべ町や田辺市は紀南地域にあるが、全国的には被害が遠隔地に拡散した例もあり、油断はできない。令和元年実績でみると、ウメの収穫量は55年連続1位、スモモは3位、モモは5位。ウメとモモ、スモモで、県の果物収穫量全体の3割近くを占めている。
 県の担当者は「有効な防除方法がないまま県全域に広がれば、果樹農家が壊滅的な被害を受ける可能性もある」と説明。弘岡研究員は「果樹王国・和歌山の農業を守り、安心して生産できる対策を確立したい」と話している。
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