■地域全体で対策を
茨城県鹿行地域の水田で、田植え後の苗を食い荒らす外来種のスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の発生が目立っている。隣接する千葉県では分布が広がっているが、茨城県では発生・被害に関する本格的な調査は行われておらず、実態は不明。千葉県境の神栖市では、田植え後の食害を防ぐため薬剤を散布する農家も出始めたが、個々の農家による対応では限界もある。被害を食い止めるには地域ぐるみの対策が求められそうだ。
■用水路に稚貝
神栖市知手の田園地帯を流れる小さな用水路。壁のあちこちで、流れに逆らうように張り付く巻き貝が見られる。近くのコメ農家、宮本一男さん(68)は「全部ジャンボタニシの稚貝。ここ数年であっという間に増えた」と苦々しい表情だ。
宮本さんは昨年まで、田植え後の水田を歩きながらジャンボタニシを駆除。その数は一度にバケツ2杯分に及ぶこともあった。今季はつばき油の絞りかすを使った薬剤を散布したところ、水際に多数の死骸が転がり、その効果が確認できたという。
ジャンボタニシの食害は鹿嶋市でも年に数件の報告があるほか、行方市でも200個ほどの卵塊が確認されており、広範囲で定着している状況をうかがわせる。
宮本さんは、神栖市ではジャンボタニシの食害で田植えをやり直した農家もあるといい、「駆除してもきりがないけれど、やるしかない」とため息交じりに語った。
■生息域は不明
神栖市でジャンボタニシの食害が報告され始めたのは5、6年前とみられるが、生息自体は30年以上前に確認されている。
農業・食品産業技術総合研究機構(つくば市)によると、1980年代後半の調査で、ジャンボタニシ分布の北限は霞ケ浦周辺と判明。市町村単位での調査は行っていないものの、同一水系内に発生した場合は次第に生息域が拡大するという。
県はこれまでに本格的な確認調査を実施しておらず、水中を自由に動き回るジャンボタニシがどこまで生息域を拡大させているかは分かっていない。
南米原産のジャンボタニシは寒さに弱いため、夏場に茨城県以北へ侵入したとしても越冬できないとされる。ただ、温暖化の影響で寒さが和らげば、分布域が北上する可能性はあるとみられる。
■補助金を交付
ジャンボタニシの食害が広範囲で広がり、昨年度から対策に乗り出しているのが、隣接する千葉県だ。
同県では数年前から、九十九里地域を中心に食害が発生。このため、昨年度から予算措置を講じ、本年度は農水省の交付金も活用して被害軽減に取り組む。
同県安全農業推進課によると、主な防除対策は(1)取水口のネット設置(2)田植え後に水位を浅くし、農薬を散布(3)冬期に田を耕運して貝を破砕(4)水路の泥上げで越冬中の貝を駆除-の四つ。地域ごとに立ち上げた防除対策協議会がこれらの対策を実施する場合に、補助金を交付しているという。
同様の対策は茨城県でも有効とみられる。茨城県農業総合センターの担当者は「これ一つで、という決め手はない」とした上で、「(個体を)増やさないためには地域全体で取り組む必要がある」と強調する。
★スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ) 南米原産の淡水巻き貝の一種。1980年代に養殖用として輸入された。野生化した個体は関東以南に幅広く生息する。全体的に丸く、開口部の層が広いのが特徴。北限は茨城県の霞ケ浦とされているが、実態は不明。水路や水田で越冬し、春に気温が上昇すると活動を始め、イネやレンコンの苗を食べる。越冬した場合、寿命は3年前後。雌はイネの茎や水路の壁などに、一度に卵200個前後の卵塊を産み付ける。
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