漫画家・矢口高雄 心に残る「釣りの十戒」 釣りキチ三平の哲学、何事にも応用可能

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】
 釣りは不得手ですが、昔読んだ漫画にあった「釣りの十戒」が心に残っています。


 〈一つ、釣り人は釣り場ではすべて親友であれ。
 二つ、釣り人は魚をいたわり自然をいたわれ。
 三つ、釣り人は釣り場を秘密にすべからず。
 四つ、釣り人は仕掛けを秘密にすべからず。
 五つ、釣り人は釣果を気にするなかれ。
 六つ、釣り人は他人をうらやむなかれ。
 七つ、釣り人は竿を棒切れのごとく大胆に使い、金のタマゴのごとく大切にすべし。
 八つ、釣り人は装備に最新の注意を払い身体を大切にすべし。
 九つ、釣り人は水をあなどるなかれ。
 十、釣り人はマナーを重んじ、常に釣技の向上に専念すべし〉
 素晴らしいと思いませんか。あらゆる趣味、あらゆる職業に応用可能な哲学でしょう。これを書かれたのは、『釣りキチ三平』をはじめ自然と人間をテーマに描き続けた漫画家の矢口高雄さん。11月20日に都内の病院で亡くなりました。享年81。死因は膵臓(すいぞう)がんとの発表です。
 先頃、国立がん研究センターが「がん10年生存率」の最新データを発表しました。がん全体では58・3%、前立腺がんが最も高く98%、乳がん、甲状腺がん、子宮体がんも80%を超えている一方、胆のう・胆管がん19%、肝臓がん16%、そして膵臓がんは6%という結果です。
 膵臓がんは未だ治療と診断が非常に難しいために、見つかったときには余命3カ月と言われる人も少なくありません。しかし逆に言えば、がんがかなり進行するまで自覚症状がほとんどなく、普通に生活ができるということでもあります。膵臓がんの原因は未だ特定されていませんが、糖尿病の人が発症しやすいことがわかっています。膵臓がんと診断された内、4人に1人が糖尿病歴をもっています。
 また、急に糖尿病が悪化した場合は、膵臓がんのサインかもしれません。ですから、糖尿病を指摘されている人は、専門医に膵臓もこまめに診てもらうことで、早期発見につなげてください。1センチ以下の早期がんなら手術で完治することも可能です。詳しくは拙著『糖尿病と膵臓がん』を読んでみてください。
 矢口さんの故郷である秋田県の横手市漫画美術館では、10月から〈矢口高雄画業50周年記念展〉を開催中で、会場には急遽(きゅうきょ)祭壇が設けられたそうです。その魂は今頃、「三密」など無縁の秋田の山里に戻られて、渓流釣りを楽しんでいることでしょう。
 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。
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