不快な外来ヤスデ大発生 「いたちごっこ」毎日の作業にお年寄り悲鳴 対策阻む高齢化・過疎の現実…

 「ヤンバルトサカヤスデに悩んでいる」−。11月中旬から南日本新聞社に投稿が相次いでいる。南薩、鹿児島市、大隅半島まで地域も広い。県内全体の状況把握は難しいが、鹿児島市が2020年度に配った駆除薬剤は1万2246袋(11月25日現在)と、昨年度1年間の9708袋を大幅に超えた。台湾原産の不快害虫は沖縄や宮崎、高知など9都県で確認されているが、鹿児島が最も深刻なようだ。


 南さつま市加世田津貫の久木野地区では10月にヤンバルトサカヤスデの発生を確認した。昨年から大量発生するようになり、今年はさらに増えた。
 大半の世帯が夕方、家屋の周囲に薬剤を散布。翌朝は薬剤に沿って大量の死骸が並ぶ。有馬サダさん(87)は毎日午前、死骸を掃き集める。「いたちごっこだ」と嘆く。
 薬剤のほか、表面のツルツルした養生テープを家に貼るなど、屋内に入らない対策をしても、一部は侵入してしまう。有馬美代子さん(73)はすぐ捕獲できるように空き瓶と割り箸を手元に置いておく。「ヤスデに振り回されている。何とかしてほしい」と訴えた。
 03年に吉田地域で初めて確認された鹿児島市は年々地域が拡大。喜入や吉田など郊外だけでなく、原良や宇宿など市街地にも現れる。市環境衛生課は「昨年も多かったが、今年はさらに多い。場所によっては異常と言っていい」と分析する。
■止まらぬ拡大
 ヤンバルトサカヤスデは1991(平成3)年に徳之島町で初めて異常発生し、99年に県本土で初確認。県廃棄物・リサイクル対策課によると、生息域は25市町村に拡大した。
 県はまん延防止策を冊子にまとめ、(1)環境整備(土手などの清掃)(2)侵入防止(養生テープやステンレス板を家の周囲に貼る。林地との間に移動防止柵設置)(3)薬剤散布−などを呼び掛ける。
 農作物や人の健康に直接の被害を与えないため、抜本的な対策を立てにくい側面もある。県市長会はここ数年「撲滅の取り組み推進」を県政に要望。環境省は2016年度から駆除対策の一部の交付税措置を制度化した。県はさらに温暖化対策の一環と位置づけ、生態の解明や駆除法の研究などを求める。
■地域で助け合い
 鹿屋市下高隈町も今年は一部の集落で大量発生している。自治会長の黒木次男さん(71)が同市に連絡すると、すぐに薬剤が届いた。しかし、それで解決とはならない。
 黒木さんは「行政は適切に対応してくれたが、高齢者が多くすぐに散布できない地域がある。行政に頼るだけでなく、地域の助け合いも大切だ」と話す。
 大量発生は高齢化が進む中山間地の集落が多い。民有地だけでなく、道路など公共スペースの対策も必要で、移動防止柵などは個人での設置は難しい。
 薬剤購入の補助率など支援の仕組みは市町村ごとに違う。鹿児島市は薬剤配布のほか噴霧器も貸し出し、町内会と合同で駆除に取り組んだ例もある。相談は各市町村役場の環境衛生担当課で受け付けている。
【ヤンバルトサカヤスデ】
 在来種より大きく体長は2.5〜3.5センチ。人をかんだり、刺したりはしない。県本土では幼虫期の4〜6月、成虫期の10〜12月ごろ集団で移動する。園芸樹木の土などと一緒に運ばれたのが生息域拡大の要因とみられる。落ち葉の積もった地面や側溝など日当たりの悪い場所を好み、繁殖力が強い。
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