釣れたのは貝殻に入った“タコ”…それとも1つの生き物? その正体を専門家に聞いてみた

 海は広くて深く、未だに謎が多い。編集部では以前、漁で偶然にかかった不気味な深海魚「ホシホウネンエソ」の生態について紹介したが、またもや奇妙な生き物が釣れたと話題になっている。


 それがこちらだ。
 見たこともない貝に入ったタコが釣れました。どういう事?
 コメントとともに、大きな貝に入ったタコの姿が収められている画像を投稿したのはken(@astroken)さん。このタコは、たまたま貝に入っていただけなのか、それとも貝とタコで1つの生物なのだろうか。
 kenさんによると、佐賀県唐津市の漁港でイカ釣りをしている時に水面近くに浮遊していたのを見つけて釣ったという。普通のタコだと思い、貝を取って一夜干しにして食べてしまったそうで、タコの旨味や香りは薄かったということだった。
 この投稿には「アオイガイですね。羨ましい」や「はじめてこんな貝見ました」などのコメントが寄せられ、8000超のいいねが付いている。(4月15日現在)
 では、実際に投稿のコメントにあるように貝とタコで1つの生物の「アオイガイ」なのだろうか? アオイガイと大気・海洋環境との関係などを調べている、北海道のいしかり砂丘の風資料館の志賀健司学芸員にお話を伺った。
「アオイガイ」で間違いない!気になるその生態
ーーズバリ、写真の生き物はアオイガイで間違いない?
この方の釣り上げたのは、アオイガイで間違いありません。通称で「タコブネ」と呼ぶ人もいますが、分類としては「タコブネ」はごく近縁ですが別種になります。
ーー珍しい生き物なの?
まあまあ珍しい、というところでしょう。世界中の熱帯〜温帯の海に生息しています。外洋には、けっこうな数が生息しているはずですが、沿岸ではあまり見られません。しかし、たまに海岸に漂着したり、定置網に何千個体と大量に入ったりすることがあります。
ーー特徴や生態など、どのようなことが分かっている?
 特徴は、タコの仲間、メスだけが殻を作りその中で産卵して孵化させる、足(正確には腕)の1対が“団扇”のような形になっていてそれで殻を作る、オスは体長1〜2cmしかなく腕の1本(交接腕)に精子を入れて切り離してメスに受精させる、などです。
 生態は、わからないことが多いです。稀に生きているものが捕獲されて水族館に入ることもありますが、1週間も持たずに死んでしまいます。寿命もわかりません。メスが殻から離れたら軟体部と殻は固着していないので引っ張れば取れます。その後、どうなるのか?などなど…
日本ではどの辺りで見かける?
ーー主にどの辺りに生息している?
 前述のように、世界中の熱帯〜温帯の海にいますが、基本的に外洋、表層で生活しています。日本周辺にもいます。海中で生体が見られることは稀ですが、秋から冬にかけて、日本海側の海岸に、ときどき殻が漂着します。
 漂着は、山陰や北陸で多いですが、水温の状態などにより、年によっては、北海道でもたくさん漂着することがあります。漂着で見つかるのはほとんどの場合、殻だけですが、漂着直後は基本的に軟体部(つまりタコ)付きで生きている状態と考えられます。
ーー釣り上げることは難しい?
 稀に「殻を持ったタコを釣った!」という話を見聞きします。アオイガイを狙って釣る人は聞いたことないのでどうですかね。
ーー投稿者は佐賀県の漁港で釣ったとのことだが、場所柄珍しいといえる?
 いえ、珍しくないです。「日本海側で多く漂着する」と先述しましたが、暖かい海に棲む生き物なので、暖流に乗って北上します。なので、日本海側(対馬暖流の流域)は、ときどき見られます。漂着や生体も含めて、よく情報を聞くのは、九州北部(特に福岡)、島根、福井、新潟などです。
 これまでに調べてきたところ、アオイガイは水温が15〜16℃以上を好むようです。温暖種なので、それ以下では厳しく。おそらく13℃以下で死ぬと思います。投稿の4月11日の九州北側の海水温を見ると、ちょうど15〜16℃なので納得いく状況です。
ーー主に水深何メートルくらいに生息しているの?
 “何メートル”という情報は知りませんが、海の表層、海面近くと言われているようです。一説にはアオイガイは、「殻の奥に空気を溜めて若干の浮力を得る」そうで、だとするとあの薄い殻は、大した水圧には耐えられそうにありません。まったく推測ですが、せいぜい10mくらいではないでしょうか。
 志賀さんによると、kenさんが釣り上げたのは「アオイガイ」で間違いないということだった。日本海側の海岸に漂着することがあり、佐賀で釣られたことは不思議ではないということだが、やはり海には珍しい生き物がまだまいるということだろう。
 釣りをした際に、次に見たこともない生き物を引き当てるのは、あなたかもしれない。
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