飼育員の方が多い!桂浜水族館のツイッター「珍しい魚」いなくても人気 「戦後初」の休館「今だからこそ」

 水族館のアカウントなのに、生き物よりも多いのは飼育員の写真の投稿。「飼育員ヲタ垢(オタクのアカウント)」とまで称される、桂浜水族館(高知県高知市)のツイッターアカウントが話題です。生き物たちを見つめる、飼育員たちの優しいまなざしに「癒やされる」「写真集欲しい」という声が続出。長年、年中無休の営業を続け、「戦後初」という休館を余儀なくされている今、ファンをつなぎとめる役割も果たしています。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)


投稿されているのは、飼育員、飼育員、飼育員…
 話題となっているのは、公式マスコットキャラクター「おとどちゃん」が桂浜水族館の魅力を発信するツイッターアカウント(@katurahama_aq)。同館はスタッフがふんする「ガチすぎる」節分の鬼の仮装や、ヒマすぎて誕生した謎キャラ「閑古ドリル」など、度々個性的な取り組みで注目されてきました。
 実際に、投稿されている写真を見てみると、飼育員、アシカ、飼育員、飼育員、カピバラ、リクガメ、飼育員、飼育員、飼育員……。圧倒的飼育員率の高さです。
 しかし、写っているのは生き物たちを見つめる、飼育員の方たちの自然なまなざし。新型コロナ禍の中で、優しい表情に癒やされる人が続出し、最近になって更にフォロワー数が増加。10万人の大台に乗りました。展示する生き物が写っていない投稿が何千回とリツイートされることも、もはや当たり前となっています。
 どうして飼育員の方を投稿し始めたのでしょうか。桂浜水族館に聞きました。
珍しい魚いなくても、「ひと」でつながれば
 「飼育員が尊い」とツイートするなど、自ら「飼育員推し」を公言する「おとどちゃん」。しかし、飼育員を発信し続ける理由は、それだけではありませんでした。
 飼育員の方にまつわる投稿をするようになったのは、2016年5月、桂浜水族館がツイッターアカウントを開設してしばらく経ってからのことです。
 坂本龍馬像などで知られる桂浜公園の中に位置する同館。地元の人にとっては幼い頃に遠足などで訪れるなじみの施設ですが、多くは大人になると足が遠のいていってしまいます。「新しい施設でも、珍しい魚がいるわけでもない」という中で、「また行きたい」と思える魅力を発信する必要がありました。
 「魚に興味がなくても、楽しい飼育員さんがいれば行くきっかけになるかもしれない。そんな風に、『ひと』でつながっていければと思いました」
 アカウントでは、飼育員が超高速で同館を紹介する動画や、話題となった節分のようなネタ系から、飼育員の方のポートレートや豆知識など、盛りだくさんの情報を発信しています。
「そんなのいらない」最初は冷たい声も
 しかし、それまでの水族館の情報発信といえば生き物が中心。当初は受け入れられず、「そんなのいらないからイベント情報だけ流しとけよ」というような、冷たいコメントも見られたといいます。
 「言う人は何をやっても『やめろ』と言うんだと思います。それよりも応援してくださる人がいらっしゃったことがうれしくて、気にしませんでした」
 今となっては、「ツイッターを見てきました」「○○さんに会いに来ました」というお客さんが多いといいます。飼育員を知ったことをきっかけに、担当する生き物が好きになったという、うれしい反応も増えています。
 同館の20名の飼育員のうち、7〜8名がSNSに登場しています。撮影を担当するのは、広報の森香央理さん。カメラを向けると照れてしまう飼育員が多かったため、自然な表情を撮るために隠れて撮影しているといいます。
 飼育員の方たちもツイッターの反応をほんのり気にしているといい、「投稿が拡散されるとわいわいしていますよ」と森さん。最近では飼育員の家族も注目しているようで、登場頻度が減っていると、我が子に「ちゃんと働いてる?」と連絡が来ることもあるようです。
「戦後初」の休館、終息後に期待
 これまでも、「ヒマ」「お客さんが来ない」などネタにしつつも、年中無休を貫いてきた桂浜水族館。しかし、新型コロナウイルスをとりまく情勢の変化から、4月13日から休館を決めました。現在のところ、休館は26日までを予定しています。
 「台風で半日休館したことはありますが、ずっと年中無休でした。ベテランの方が言うには、休館は戦後初なのではないかと……」(森さん)。ツイッターでは同館が休館することを知って、今回の「事の大きさ」を理解したという旨のツイートまでみられます。
 休館でお客さんが来なくなっても、生き物たちはそこで暮らしています。飼育員の方たちにとって、「ご飯をあげたり、掃除をしたり、やってることは変わらない」という森さん。しかし、ショーなどがなくなったことで、施設のメンテナンスや職員が一緒に食事する時間がとれているといいます。
 新型コロナ禍の中でアカウントが注目されたことを、「こういう時だからこそ、みなさんが癒やしを求めていたのでは」というおとどちゃん。投稿に対するうれしい反応に、「頑張ってきたのが報われた」と話してくれました。
 電話取材の最後、つい癖で「お忙しいところ申し訳ありませんが…」と言った記者。すかさずおとどちゃんは「忙しくないんで」と答えるのでした。
 魅力的な飼育員の方々と生き物たちが、新型コロナが終息した後に、みなさんが訪れるのを待っています。またひとつ、「コロナ後」の楽しみが増えました。
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