「金魚放流やめます」殺生戒める伝統行事・興福寺の放生会 虐待批判受け 奈良

 「金魚の放流やめます」。興福寺(奈良市)は今年から、猿沢池に生き物を放して殺生を戒める伝統行事「放生会(ほうじょうえ)」(毎年4月17日)で金魚の放流を取りやめると宣言した。「生態系破壊につながる」「虐待だ」などとの批判を受け決めた。今年は猿沢池にもともと生息しているモツゴなどの在来種を放つ。


 興福寺の放生会は、昭和の初めごろから寺近くの猿沢池で営まれるようになったと伝わる。寺によると、少なくともここ数十年は、信徒から寄進された金魚やコイの稚魚を手おけに入れて放していた。
 しかし、数年前からツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で「池に元からいなかった金魚を放つのは自然破壊と虐待」「無責任に放してカメのエサにするのは放生会じゃないでしょ」などの批判が相次いで寄せられるようになった。寺が近畿大に学術調査を依頼したところ、金魚について▽カメなども生息する池の環境になじめず、早々に死ぬ可能性が高い▽光沢があり色も目立つため鳥に捕食されやすく、結果的に在来種も狙われる――ことが判明。生態系への影響だけでなく行事本来の趣旨との隔たりも明らかになったため、方針を変更することにした。
 今年は放生会を前に、近畿大農学部の北川忠生准教授(保全生物学)と学生らが池に網を仕掛けて魚を捕獲し、モツゴやシマヒレヨシノボリなどの在来種を選別。「投げ入れるのがかわいそう」との声にも答え、放生会では繊維強化プラスチック(FRP)製の魚専用スロープで優しく池に放流する。
 興福寺の辻明俊(みょうしゅん)執事(42)は「伝統の宗教行事を続けながら、池の環境を守り、100年先、200年先も誇れる猿沢池にしたい」と話している。【加藤佑輔】
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