今年は子年 奄美に息づく固有種たち

 夜の森。樹上にライトを向けるとつぶらな瞳が光った。体よりも尾が長く、先の半分ほどが白い。枝を揺らしながら木から木へ、器用に移動しながら深い森の中に消えていった。


 国の天然記念物のケナガネズミ。鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄島だけにすんでいる。体の大きさが20〜30センチもある国内最大のネズミの仲間。背中に生えている長い剛毛が和名の由来。今年夏の世界自然遺産登録を目指す奄美・沖縄を代表する生き物だ。
 夜行性で主に樹上で生活している。シイやマツの実などのほか、バッタなどの昆虫も食べるという。ケナガネズミが実を食べた後の松かさの形はエビフライにそっくり。昼間に林道を歩いて小さなエビフライを探しながら、ケナガネズミの暮らしに思いをめぐらせるのも楽しい。
 森林開発などで数が減り、環境省のレッドリストで絶滅危惧1B類。種の保存法で国内希少種に指定して保護している。奄美大島では特定外来生物マングースの駆除が進んだことで、近年は生息状況が回復しているとみられている。一方で、交通事故に遭ったり、野生化した猫(ノネコ)に捕食されたりといった被害も増えている。
 ケナガネズミのほか、奄美大島にはアマミトゲネズミ、徳之島にはトクノシマトゲネズミ、沖縄島にはオキナワトゲネズミと、各島に固有のトゲネズミの仲間も生息している。いずれも国の天然記念物。
 トゲネズミはジャンプ名人で知られる。毒蛇ハブの攻撃を得意のジャンプでひらりとかわす。小さな生き物たちも、森の中でたくましく生きる力を身に付け、命をつないでいる。
 奄美と沖縄の島々は、大陸から離れて分離・結合を繰り返した地史などによって、生き物たちが独自に進化し、さまざまな固有種が生まれた。多様なネズミたちは、島々が世界自然遺産にふさわしい価値を持つ証しだ。
 今夏、いよいよ奄美・沖縄の世界自然遺産登録の可否が決まる。登録延期から再推薦を経ての挑戦。今年の干支は子(ねずみ)。奄美と沖縄にすむネズミたちにあやかり、大きく跳躍する年になりますように。
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