カゲロウが過去数年で半減、原因は殺虫剤か、米国

生態系支える貴重な食料源、大量発生を気象レーダーで解析
 北米で、カゲロウが激減していることを示す研究成果が、新たに発表された。


 カゲロウは、幼虫の間は水中で過ごし、成虫になって空へ飛び立つ水生昆虫。毎年夏になると、最大で800億匹もの大量発生が起き、水辺の町では除雪車を使って取り除くこともあるほどだ。大量発生したカゲロウは、淡水魚や鳥、コウモリなどさまざまな動物の食料となり、生態系に重要な役割を果たす。
 ところが、1月20日付けの学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載された論文によると、2012年以降、ミシシッピ川流域北部や五大湖の一つであるエリー湖のカゲロウの数が50%以上減っているという。原因は、おそらく水質汚染や藻類ブルーム(大発生)にある。
「年を追うごとに減っていると知って、本当に驚きました。まったくの想定外でした」と、論文の筆頭著者で、米ノートルダム大学の生物気象学者であるフィリップ・ステパニアン氏は話す。
 カゲロウの大量発生は規模や密度が非常に大きいため、雨や雪を追跡する気象レーダーにも映り込む。長い間、気象学者たちはこの信号を一種の「ノイズ」として無視してきた。しかし、気象学者であるステパニアン氏は、この信号からカゲロウなどの昆虫や鳥の大移動について情報を得られるのではないかと考えた。
 論文の中で、ステパニアン氏らはレーダーを使ってカゲロウの数を見積もっている。この手法は、川や湖の底にある土砂から見つかった幼虫の数と比較することで有効性が検証された。
 研究の結果、2015年から2019年までの間に、エリー湖西部でのモンカゲロウの一種の生息数がなんと84%も減少していることが明らかになった。ミシシッピ川流域北部でも、2012年から2019年までの間に52%減少していた。
 カゲロウは、さまざまな捕食者に食べられることで、生態系を支える重要な働きをしている。ほかにも大量の栄養分を水から陸に運ぶという生態学的に貴重な役割も担っている。
「カゲロウには、水陸両方の生態系に欠かせない機能があります」と、今回の研究には関わっていない米パデュー大学の生態学者ジェイソン・ホバーマン氏は語る。 「生息数の減少は食物網全体に影響を及ぼす可能性があります」
カゲロウはなぜ減っているのか?
 カゲロウが減っている原因はいくつか考えられる。まず、近年、エリー湖や中西部の多くの淡水系で濃度が上がっているネオニコチノイド系殺虫剤だ。この化学物質は多くの昆虫にとって有害だ。2018年のある研究によると、五大湖に注ぐ川では、米環境保護庁が水質保全のために設定した指標の40倍の濃度が観測されている。
 また、特にエリー湖では、肥料や栄養分の高い物質が大量に流れ込むことで、藻類が大発生(藻類ブルーム)が起きている。その結果、酸素の量が低下する「デッドゾーン(死の水域)」が出現することがあり、カゲロウの幼虫など水生生物に被害が及ぶ。さらに、気候変動によって水温が上昇することで、動物のライフサイクルが影響を受けているほか、湖の酸素循環が減っている可能性もある。
 長年エリー湖のカゲロウについて研究しているドイツ、ハイデルベルク大学国立水質研究所名誉所長のケネス・クリーガー氏は、カゲロウを水質の総合指標と表現する。だからこそ、カゲロウの減少は不安材料の一つになっているのだという。
 オーストラリア、シドニー大学の生態学者フランシスコ・サンチェス=バヨ氏は、「他の水生昆虫も、同じ理由で減少している可能性があります」と言う。「そうした地域では、鳥やカエル、魚といった、昆虫を食べる生物の数が減るのは避けられません」
昆虫の大絶滅の時代
 それだけではない。世界中で行われている研究から、さまざまな昆虫が大幅に減っていることがわかっている。2019年4月に学術誌「Biological Conservation」に掲載された論文によると、すべての昆虫の種のうち40%で生息数の減少が起きており、今後数十年間で絶滅に至る可能性もあるという。
 ネオニコチノイドは水生昆虫への影響が大きいことが知られており、今回の論文によれば、カゲロウは特にその影響を受けやすいという。最近の別の研究によると、日本の宍道湖にネオニコチノイドが流れ込んだことで、水生の無脊椎動物が減少し、それを食べていた商業的に重要な2種類の魚が減少しているという。
 数十年前、カゲロウの数は落ち込み、その後回復したことがある。しかしホバーマン氏は、ここ数年間は一貫して減少を続けている点が心配だと話す。
「昆虫の数が大きく減少していることを示す研究は増え続けています。今回の研究もその一つです」
文=DOUGLAS MAIN/訳=鈴木和博
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