農作物や建物などに被害をもたらす特定外来生物「クリハラリス(タイワンリス)」の神奈川県鎌倉市での捕獲数が今年度、過去最多ペースで推移している。原因は不明だが、山林などで増えすぎた個体が市街地にあふれ出てきた可能性も取り沙汰され、市は捕獲関連予算の増額に動くなど対応に追われている。専門家によると、横浜市、川崎市でも生息しており、生息域を拡大させて生物多様性が損なわれることが懸念される。
県内では三浦半島で生息し、これまでに庭の果実や店の商品が食べられたり、寺社の建物、電線がかじられるなどの被害が確認されてきた。鎌倉市は平成12年度から捕獲に乗り出し、捕獲数は30年度には過去最多の1571匹を記録した。今年度は11月末時点の速報値で1553匹に達し、過去最多を更新する可能性が高まっている。
「冬季にハイキングコースなどで実地調査を行っているが、山奥よりも民家に近い場所で目撃することが多い」。市の担当者はこう説明するが、「生態を研究していないので、捕獲数が増えている理由は不明」と困惑する。
令和3年12月に生息情報の収集と捕獲対策のために「クリハラリス情報ネット」を設立した森林総合研究所の田村典子・研究専門員は「鎌倉市だけで推定1万匹ほど生息している」と述べた上で、「増加しすぎた個体が市街地にあふれ出てきているのではないか」と指摘する。
市は捕獲で約200台のおりを無料で市民に貸し出し、1匹当たり6270円の費用で処分を進めている。今回の急増を受け、今月の市議会で今年度の処分関連の予算を700万円増額して約1860万円とする議案が可決され、過去最高額となった。
観光客らには人気もあるタイワンリスだが、市の担当者は「餌付けによって個体数が増加したり、人間を恐れなくなったりする。細菌も持っているので触らないでほしい」と注意を呼び掛ける。
田村氏は三浦半島の北側の横浜市、川崎市で生息し始めているとする一方、西側に生息域を拡大させて丹沢山塊の生物多様性が損なわれることを懸念。「何としても防がなくてはいけない」とし、関係自治体の捕獲強化が必要と訴える。
■タイワンリス ペットや動物園での飼育のために輸入され、人間の管理下から逃げたり放たれたりして野生化したとされる。尾を含めた体長は30~50センチ程度で、農林業、生活環境への被害だけでなく、生態系への影響も懸念されている。