外来種ヤスデ 静岡県内で拡大 専門家「行政と住民連携し対策を」

 節足動物ヤスデの一種で台湾原産の外来種ヤンバルトサカヤスデが静岡県内で生息域を広げている。在来種より繁殖力が強く、温暖な本県では越冬も可能な“不快害虫”。静岡市で2002年に確認されて以来、沿岸部の市町を中心に生息域を拡大し、内陸部の住民からも苦情が出ている。専門家は「外来種対策の優先順位が低く、放置されている」と指摘し、拡大防止策を講じる必要性を強調する。

 ヤンバルトサカヤスデは体長3センチほどで、普段は落ち葉の下などに潜んでいる。人をかんだり農作物を食い荒らしたりはしないが、外部から刺激を受けると青酸を含む悪臭ガスを放ち、頭痛や吐き気、下痢を引き起こすことがある。毎年10~12月に大量発生し、夜間に集団で壁をよじ登って家屋に侵入することもありノイローゼや不安障害を訴える人もいる。

 ヤスデに詳しい県環境衛生科学研究所(藤枝市)の神谷貴文主査によると、在来種のヤスデの繁殖は4~8年に1回だが、ヤンバルトサカヤスデは毎年繁殖する。研究所が08年度から県内市町や保健所に実施しているアンケートでは当初、大量発生の報告があったのは静岡市だけだったが、徐々に県東部、西部からも報告が増え、22年度時点で14市町に拡大した。土や堆肥、植木などと一緒に卵や幼虫が運ばれて生息域が広がったとみられる。

 ヤンバルトサカヤスデは温かく湿った場所を好むが、神谷主査の実験では、気温5度の環境で約3カ月間生存し、繁殖もしたという。それを裏付けるように焼津市では今年4月、一部地域で同ヤスデが大量発生した。市は住民の要望に応じて駆除用の薬剤を配布した。今秋は「今のところ目立った苦情や相談はない」(担当者)というが、11月上旬に同じ地域を訪ねると、屋外の植木鉢の下で脱皮したばかりの成虫が数匹見つかった。担当者は「いつでも住民の相談に対応できる準備をしている」と話す。

 他にもホームページで注意喚起する自治体があるが、ヤンバルトサカヤスデはヒアリのような特定外来生物ではなく、人に直接的な被害を及ぼす衛生害虫にも位置づけられていないため、自治体間で対応に差がある。神谷主査は「県や市町の環境分野と農林、建設などの部署が情報共有し、住民や関係事業者と連携して対策を講じてほしい」と話す。

■生活圏侵入と広域拡散の防止 重要

 10~12月に大量発生するヤンバルトサカヤスデの対策として、県環境衛生科学研究所の神谷貴文主査は「根絶するのは困難。生活圏内への侵入と広域拡散を防ぐことが重要」と話す。

 生活圏内への侵入を防ぐには、側溝の清掃や落ち葉の除去を定期的に行いヤスデが好む場所をなくすことが重要。壁や塀にヤスデが滑りやすいステンレス材や養生テープなどを貼るのも有効という。一方、広域拡散対策には、土壌や植物を移動する前の薬剤処理などを関係業者に協力を求める必要があるとしている。

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