名古屋にキツネも…「街中動物」獲りきることはもはや困難…ならば共存を目指すしかないのか?

 庭に侵入したタヌキに網戸を破られた。池の鯉をアライグマに食べられた。最近、身近でそんな話をよく聞く。夜間にウォーキングしていると、ハクビシンを見かけることもしょっちゅうだ。街中の野生動物、急に増えた気がするのは私だけ? 人間環境大学環境科学部 フィールド生態学科准教授の立脇隆文氏に実態を聞いた。

◆札幌ではシカやヒグマ、神戸にイノシシ、アライグマやヌートリアも…

現在、日本の都市部には、野犬、野猫以外にどんな野生動物がいるのだろうか。

「本州、四国、九州の都会と呼ばれる地域によく生息しているのはタヌキ、アライグマ、ハクビシン、ネズミ類。また、北海道の札幌にはキツネのほか、シカやヒグマも出てきています。さらに、横浜や浜松ではクリハラリス、大阪ではヌートリア、神戸にはイノシシも出ています。そのほか名古屋でも、名古屋城近辺にキツネが見られるようになっています」(立脇隆文氏/以下同)

 まるで動物園のようなラインナップに改めて驚かされる。昔から日本にいたタヌキ、シカ、ヒグマだけでなく、国外から来たクリハラリスやヌートリアなども増えているとは! 名古屋のキツネは意外だったが、庄内川の河川沿いに山間部から歩いてきたり、知多半島から来たのではないか、とも言われているそうだ。なぜこんなに急激に増えてきたのだろうか。

「徐々に増えてきた結果、今、急速に感じるようになったということかもしれません。単純に考えるとネズミ算式に倍々に増えるので、一度減った状態から回復してくると、急に個体数や分布域が増えたように見えると思います」

 要するに、何かのきっかけがあって急激に増えたというよりは、徐々に増える速度が速まってきたということらしい。例えば都市のタヌキは都市開発などによって一度はいなくなったけれど、山間部にいたものがまた戻ってきた、ということのようだ。彼らはなぜ戻ってきたのか。

「山に餌がなくなったわけではなく、都市部にも餌があるからだと思います。タヌキは、自然の中では昆虫や木の実を探して食べていますが、雑食なので残飯なども食べることができます。都市では定期的にたくさんのゴミが捨てられるので、おなかいっぱいに食べられます。そういうのを知っちゃったら、都市に住みたくもなってしまいますよね(笑)」

◆森や山から下りてきた訳じゃなく、都市に生まれて都市に生きるシティ派も!

都会好きな動物は世界各地にもいるようで…。

「原産地では、アライグマは自然な環境よりも郊外や都市部に多く生息することがわかっています。そういう動物は“アーバンカーニバー(都市的な肉食動物)”と呼ばれていて、他にも、イギリスにはキツネがたくさんいたりします」

さらに都市の動物の中には、ペットや毛皮目的で輸入され、野生化した外来種も。

「日本ではアライグマ、クリハラリスなどの外来種が都市内でも増えています。外来種については生態系が壊れるのが怖く、一緒にいないほうがいいのかな、と思います。都市の中は生態系とは関係ないから、一緒にいてもいいだろうと感じる人もいるかもしれませんが、動物たちは都市の中だけに留まっていてくれるものでもありませんよね」

◆駆除が進まない理由は「勝ち目」がないから!?

 アライグマなどは外来種の中でも特定外来生物として、法的に駆除の対象とされている。けれど保健所が捕獲対象にしているのは野犬と野猫程度で、外来種は対象となっていない。都市に増える外来種の駆除の状況は?

「日本の外来種対策は十分に進んでいるとは言えません。駆除が進まない理由としては、限られた予算の中で、勝ち目が見えないというのが大きいのかなと。島のように狭い範囲であればビジョンも見えてきますが、本州全土になると、今の対策の規模や仕組みではなかなか獲りきれないと思います」

 となると、少なくともしばらくの間は、外来種も含めて都市の野生動物と共存していくしかないが、具体的にどうすればよいのだろうか。

「まずは、知らない間にすごく増えた、すごく減ったということがないように、モニタリングをしていくことが重要だと思います。環境省や各都道府県が捕獲数の記録や生息場所の調査をしていますが、農業被害が深刻なシカやイノシシなどと比べると、都市に住む動物のモニタリングはあまり進んでいないように感じます。

今の日本は人口減少や新型コロナなど喫緊の課題にリソースが割かれていて、野生動物たちの問題は後回しにされがちですが、都市の動物の生息状況にも気を配り、人間と動物が互いに与える影響を減らす仕組みを作っていけるとよいと思います。

ロードキル(交通事故個体)の通報記録を残していくだけでも、個体数の増減がわかってくるはず。こうしたデータを軸に、駆除の効果を評価したり、有効な対策を探したりしていけば、都市にいる動物との付き合い方が見えてくるのではないでしょうか」

 野生動物たちとの共存にはたくさんの課題があるが、かわいいと思ってもむやみに餌付けをしたり、手を出すのはNG。当たり前のことだが、本来の生活とは違うプラスアルファを極力与えないことが肝心といえそうだ。

立脇隆文(タテワキ・タカフミ)人間環境大学環境科学部 フィールド生態学科准教授。人と野生動物の共存を目指し、野生哺乳類の基礎生態(食性など)の解明、野生哺乳類の個体群モニタリング手法の開発などの研究を行っている。

取材・文:井出千昌

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