外来シロアリに食い潰される!「日本の木造の家」全滅の危機

 知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回は、外来種によるシロアリ被害についてみていきます。

外来種急増!従来の防蟻処理では通用しなくなった

 以前 、我が国のシロアリ対策(防蟻)には問題が多く、7割程度の工務店・ハウスメーカーは、5年程度しか効果が持続せず、体にも有害な合成殺虫剤による防蟻処理を行っていることを説明しました。そのため、新築やフルリノベーション時に、施主がきちんとした知識を持って、永続性があり人体に無害な防蟻方法を選ばないと、健康リスクがなく、資産価値や耐震性能が維持される住まいにならないのです(関連記事: 『恐ろしい…EUの禁止農薬が使われる「日本のシロアリ対策」驚愕の実態』 )。

 さらに、日本に多く生息しているヤマトシロアリ、イエシロアリは、地下シロアリと言って、地中に巣を作り、床下に蟻道(図表1)という通り道を作って、家の中に侵入してきます。床下を点検して蟻道がないことが確認できれば、シロアリの被害は起きていないとある程度判断することが可能であることにも触れました。そのため、現在の建築基準法では、シロアリ対策については、木造建築の場合、地面から1mの構造耐力上主要な部分(柱・筋交い・土台など)に対し、必要に応じて防蟻処理を行うことが求められているのです(図表2)。

ところが、その状況が大きく変わってきています。というのは、アメリカカンザイシロアリ(図表3)という外来種の被害の急増により、蟻道の有無の確認ではシロアリ被害の判断はできなくなってきています。そして、地面から1mではまったく不十分になっており、従来の防蟻方法では通用しなくなっているのです。

なぜアメリカカンザイは従来の防蟻処理が通用しない?

 アメリカカンザイシロアリは、ヤマトシロアリやイエシロアリとは、まったく生態が異なります。最大の違いのポイントは、カンザイという名前にあります。ヤマトシロアリなどは、「地下シロアリ」といって、地中に営巣し、蟻道を作って、いわば住宅に通勤して木を食べています。かれらは地中の水分がないと生きていくことができないのです。

 それに対して、アメリカカンザイシロアリは、名前の通り、乾いた木材に残されたわずかな水分で生息することができます。そのため、家の柱や梁などの構造材自体に巣を作り、その巣を家の中でどんどん広げていきます(図表4)。

また、地中から侵入するのではなく、輸入家具に紛れ込んできたり、羽アリがツガイで飛来し、自分で羽を落として家の中に侵入して、2階の柱や屋根の構造材等にも巣を作るのだそうです。

 つまり、従来の地面から1mの防蟻では通用しないのです。また、地下から侵入するわけではないため、基本的には蟻道を作りません。床下に蟻道があるかどうかでシロアリの被害が生じているかどうかの判断がつかないため、発見が難しく、発見されたころには、被害はかなり深刻になっている可能性が高いのです。

ヒノキを好むアメリカカンザイシロアリ

 もう一つ、アメリカカンザイシロアリが厄介なのが、好む樹種がヤマトシロアリ等と大きく異なる点です。ヤマトシロアリ等は、ヒノキはあまり好まないため、製材のJAS規格耐久性区分D1樹種に分類されており、一応、シロアリ等にも強い高耐久樹種とされています。

 ところが、アメリカカンザイシロアリは、【図表5】に示す通り、ヒノキが大好物で、好みの樹種のなんと第三位に位置付けられています。アメリカカンザイシロアリの生態が住宅業界でもあまり知られておらず、いまだに、「当社はヒノキを使っているので、特に防蟻はしていませんが大丈夫です!」と言っている工務店が意外と多いことにも注意が必要です。

生息エリアはどんどん拡大中

 アメリカカンザイシロアリの生息エリアは、どんどん拡大しています。筆者のいる横浜市は、被害がかなり深刻なエリアになっています。そして、寒冷地にはあまりいないと思われていたのですが、最近は、【図表6】の地図の通り、生息エリアを岩手県まで拡大しています。

意識されていないアメリカカンザイシロアリ対策

 以前 、意識の高い工務店は、合成殺虫剤系の防蟻方法から、加圧注入材やホウ酸処理にどんどん切り替えており、防蟻方法を聞いてみることが工務店等の住まいづくりの意識を見極めるのにとても有効であることを説明しました(関連記事: 『恐ろしい…EUの禁止農薬が使われる「日本のシロアリ対策」驚愕の実態』 )。

 ところが、アメリカカンザイシロアリ対策については、意識の高い工務店においても、とても遅れているのが実情です。筆者もアメリカカンザイシロアリ対策を標準仕様にしている工務店は、数社しか知りません。

 高気密・高断熱・耐震等級3を売りにしている意識の高い工務店の社長と話していて、アメリカカンザイシロアリの話をすると、「それは知りませんでした。」と言われることがとても多いのです。筆者に相談に来られた方には、なるべくアメリカカンザイシロアリについてお伝えするようにしており、筆者が紹介する工務店等にも少なくともオプションでは対応していただくようにお願いはしています。ですが、住宅業界全体では、まだまだこの問題は共有されてない印象です。そのため、施主が知識を持って、アメリカカンザイシロアリ対応を指示しないと、何十年後かに後悔する可能性が少なくありません。

意外にリーズナブルなアメリカカンザイシロアリ対策

 では、アメリカカンザイシロアリ対策は、どのようにしたらいいのでしょうか?

 防蟻効果に永続性があり、人体に無害な防蟻方法として、加圧注入材やホウ酸処理があることは、すでに説明した通りです。筆者は、これらを地面から1mまでではなく、2階の柱や屋根の構造材である小屋組みまで含めた主要構造部すべてに施工することをお勧めしています。

 主要構造部すべての材を加圧注入材にする家も中にはあるようですが、なかなかハードルが高いようです。それに対して、主要構造部すべてをホウ酸で処理(図表7)することは、それほど大変なことではありません。延べ床面積で30坪程度の家の場合、地面から1mまでをホウ酸処理を行う費用に、15~20万円程度の追加費用で主要構造部すべてをホウ酸処理することが可能です。

 私はこの15~20万円程度の費用は、性能にこだわり、長期間にわたって耐震性能や資産価値を維持したいのならば、必ずかけるべき費用だと考えます。

 家を新築もしくはフルリノベーションする際には、ぜひ、アメリカカンザイシロアリに対応した防蟻処理にすることを施工会社に依頼することをお勧めします。

住まいるサポート株式会社 代表取締役 高橋 彰

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