稚魚放流では増えてない 魚にもっと自然に産ませよう!

 サケ、ヒラメ、シシャモ、ニシンなど、日本では人工的に孵化させた稚魚を放流して、水産資源を増やそうという試み種苗放流が、全国で約70種も行われています。恐らく、多くの皆さんは、その効果に何の疑問を持つことなく、孵化させた魚の放流に期待していることでしょう。筆者も、その一人でした。

 ところが、世界に目を向けてみると、水産資源をサステナブルにしている国々と、わが国が行っていることは、どうやら違うことがわかりました。「間違っている前提に基づく正しい答え」が魚の資源が激減している日本では随所に見られます。その一つ、種苗放流について解説します。

 例えば、日本ではシシャモやニシンの種苗放流を行っています。国産シシャモは漁獲量の激減が止まらずで、資源は壊滅寸前です。

 また、ニシンも増えたといっても、それはかつて50万トン漁獲されていた数量が5000トン程度に減り、最近では1.5万トン程度になっているに過ぎません。ニシン御殿で栄えた全盛期の漁獲量から、その僅か1%になってしまい、それが3%になっただけのことです。

 ヒラメなどの高級魚と異なり、多獲性魚であるニシンのこの量は、ノルウェーでは2~3日で漁獲できる量なので、大した違いではありません。

 一方で、アイスランド、ノルウェーといった国々ではニシンもシシャモ(カラフトシシャモ)の漁獲量は桁違いに多いですが、種苗放流をしているとは、聞いたことがありません。資源量が減ってきたら、科学的根拠に基づいて、漁獲枠を減らしたり、禁漁にしたりといった数量管理の措置を徹底して、必ず資源を復活させています。

 種苗放流の代表例であるサケについても、サケの漁獲量が日本と対照的に高水準でMSC認証を持つアラスカ(米国)では、コンセプトが大きく異なります。

 それでは、種苗放流の実態が分かる例として、誰も疑問を持っていないであろうヒラメのデータをグラフにして実証してみましょう。

ヒラメの数字で分かる種苗生産の効果の低さ

 日本の水産資源管理や政策は基本的にPDCAがないので、資源状態が悪くなったら、海水温上昇や外国などに責任転嫁されてしまいます。このため、効果的な改善策が見えてきません。そして国民が知らない内に、悪化だけが進んでいます。

 ヒラメは種苗放流をしている代表的な例です。上のグラフでわかるように、ヒラメ(太平洋北部系群)の資源量は、東日本大震災後に激増しています。放射性物質の影響で漁業が大幅に制限されて、漁獲圧力が減ったため、つまり「ヒラメを獲らなかったので増えた」ということです。

 同じく、マダラ(太平洋北部系群)も、東日本大震災後に一時的に増えました。同じ年に生まれた魚の資源が、翌年も残って増えていることが下のグラフを見れば一目瞭然です。しかしながら、漁獲枠もなく、幼魚まで獲ってしまい再び資源量は激減してしまいました。

 少し増えても、幼魚に手を出して魚が成長する機会も、産卵する機会も奪ってしまう。これでは同じ誤りの繰り返しです。海水温上昇や外国が悪いということではありません。

東日本大震災が見せた資源回復の〝真実〟

 下のグラフをご覧ください。種苗放流によって資源が増えるという概念が覆されます。オレンジの折れ線グラフが資源量の推移で、青線がヒラメの稚魚の放流数です。

 2011年に東日本大震災で種苗放流が影響を受けました。11年は、ほぼゼロ。12~14年までは、震災前の約400万尾の4分の1以下の放流数でした。種苗放流が資源を増やしていたのなら、ヒラメの資源はこの間に減少するはずでした。

 しかしながら、グラフからヒラメの資源は減るどころか、大幅に増えていたことがわかります。これは、震災で漁船の操業が減少したことで、ヒラメが増えたということなのです。

 震災という特殊事情があったからこそ、このように種苗放流の効果に疑問を呈することが明確にできました。ただ、他魚種も似たり寄ったりであることが考えられます。その根拠は、沿岸漁業でさまざまな魚種が大きく減り続けているということです。現実に目を背けてはいけません。

 ポイントはもう一つあります。それは、水産資源は自然に産卵させておけば、魚は増えるということです。

 魚を減らすことなく獲り続けられる量(MSY=最大持続生産量)を意識しながら漁業を行うことが、国連海洋法でも持続可能な開発目標(SDGs)14(海の豊かさを守ろう)でも基本です。

 この基本をわが国では長らく守って来ませんでした。世界と比較し、魚が減ってしまった結果を見て下さい。皮肉にも震災という大自然が「強制的な一時的禁漁」という資源回復のための大ナタを振るったのです。

サケの漁獲量から見える欧米諸国との差

 日本では、21年のサケの漁獲量は僅か5万トンで、大不漁が続いています。2000年代には20万トンあった漁獲量はみる影もありません。しかしながら、アラスカやロシアでは不漁どころかその逆です。

 アラスカでは、サケ類の漁獲量が21年は23万トンと近年3位の豊漁。ロシアでは同53万トンと過去10年で2番目の大豊漁となっています。アラスカでは自然産卵を重視(自然:採卵=66%:34% Fish & Game 2018)している一方で、日本ではできるだけ採卵して放流する手法を取っており、とても対照的です。

 北海道のサケ(シロサケ)で11~14年にかけて世界的な水産エコラベルであるMSC漁業認証の取得が目指されましたが断念していました。

 その際に、資源状態が悪い場合については、MSCの認証の規格の中に「天然サケの資源量を回復させる方策が実施されていること。その回復のための増殖は、ほとんど行われていないこと」という項目があります。資源状態が悪い場合に採卵による増殖をほとんど行わないということを守っていたら、今のようにサケが減っていなかったのかも知れません。

 皮肉なことにMSC認証を持つアラスカとロシアのサケは、日本とは対照的に今年も好調な漁が続いています。

日本の水産資源回復でやるべきこと

 種苗放流に効果がないとまでは言えません。魚の生態研究などには大いに役立つのでしょう。しかしながら、水産資源管理に成功している北欧、北米などでは、ほとんど行われていないのが現実です。また、最近のウナギの放流に関する論文で「日本各地でウナギの放流が行われているが、効果検証は進んでいない」「2年間で約95%の個体減少が観察されました」とあります。もっと、客観的な事実をもとに検証を進め、現実を直視して対策を取るべきでしょう。

 東日本大震災の前後のヒラメの例では、種苗放流が減っていた時期の方が、資源状態が良くなるという分析結果でした。日本の水産資源を守るための本質的な手段は、種苗生産ではなく、科学的根拠に基づく数量管理に尽きるということなのです。

+Yahoo!ニュース-国内-Wedge