国際的に重要な湿地としてラムサール条約に登録されている福井県敦賀市樫曲の中池見湿地に、生態系に影響を及ぼす恐れがある特定外来生物「ヌートリア」が侵入している可能性があることが5月20日までに分かった。特徴的なふんが見つかったほか、定点調査カメラにヌートリアとみられる動物が複数回撮影されていた。市はおりを設置し、捕獲に乗り出した。
ヌートリアは南米原産のネズミの一種で、体長40~60センチ。流れの緩やかな河川や湖、湿地などの水辺に生息する。県外では水生植物を壊滅させたり、大型二枚貝ドブガイを大量捕食したりといった食害例がある。福井県によると若狭町、小浜市、おおい町、高浜町で生息が確認されており、捕獲もされている。敦賀市ではこれまで捕獲や写真撮影などによる生息確認はされていない。
ヌートリアのものとみられるふんは2022年3月、湿地の保全や活用に取り組むNPO法人「中池見ねっと」の藤野勇馬さん(26)が湿地内にある通称「笹鼻池」に複数浮かんでいるのを見つけた。ソーセージ状の特徴的な形から「すぐにヌートリアのものではないかと感じた」。水辺の植物に従来はあまりみられなかった食痕もあり「ヌートリアがかじったのかもしれない」と話した。
さらに日本女子大学理学部の深町昌司教授が野生メダカの生態調査のために設置したカメラには、ヌートリアとみられるネズミのような動物が写っていた。21年10月15日午後11時ごろと22年3月29日午後9時ごろのデータに、カメラの前を横切るように泳いだり、旋回したりしている様子がとらえられていた。
一連の報告を受け、市は3月下旬から、捕獲用のおりやカメラを設置。カメラには夜間、ヌートリアとみられる動物が撮影されたが、捕獲には至っていない。
中池見湿地は広さ約25ヘクタールの湿地に、絶滅危惧種を含めた約4千種の動植物が確認されている。ふんが見つかった「笹鼻池」には食害例がある大型二枚貝も多数生息しており、藤野さんは「ヌートリアが複数個体侵入して、繁殖、定着してしまうと貴重な動植物の生態系に変化を及ぼしてしまう可能性がある。早い段階で手を打つことが重要と考えている」と指摘している。