ナマズ料理、懐かしい川の味「おちょぼさん」で守る水郷の象徴

 口元の長いひげをなびかせ、向かってくるような躍動感。頭上で輝く立体のナマズ看板は、にぎわう参道でもひときわ目を引く。

 「おちょぼさん」の名で親しまれる千代保稲荷神社(岐阜県海津市平田町)の門前にある川魚料理店「やまと」は、1916(大正5)年の創業。ナマズ料理が売りだ。3代目の近藤輝明さん(81)は、「わっちゃ(私)は、ナマズがかわいいてしょうないんや」と目を細める。

 幼少の頃、木曽三川の下流域独特の風景を残していた自宅の周りには、川魚があふれていた。かさ上げした田んぼ「堀田」の周囲の水路「堀つぶれ」や決壊跡の「鯰(なまず)池」。水に漬かるとナマズやドジョウが一緒に泳いでくれた。

 近くの津屋川や大江川でナマズはいくらでも捕れたという。「タンパク源として王様やった」。初代栄次郎は興行で招いた力士に、なまず汁を振る舞っている。店で出す料理は焼き魚や天ぷらから、かば焼きが主流になっていく。

 さばき方は、父親の勝次さんから教わった。金串を1本ずつ洗うようなきちょうめんな人で、「川魚は足が早い。面倒でも、1匹でも、注文を受けてからいけすから上げなあかん」と手間を惜しまぬよう教え込まれた。

 40歳で経営を引き継ぎ、東大鳥居の前に宴会ができる新館を建てると、後のバブル景気に乗って大当たり。客は大皿にのった1万円の大ナマズに歓声を上げ、両手いっぱいにかば焼きや大正エビの塩焼きを抱えて帰っていった。

 2005年には、ナマズ研究者の秋篠宮さまが、ご夫婦で訪れている。かば焼きや鍋を賞味し、「あっさりしていますね」と感想を述べられた。「ナマズ文化普及のため、一人でも多くの方が召し上がれるよう、ランチをされてはいかがですか」と助言もされたという。

 この頃は地場の天然ものを出していたが、ランチを始めるには手頃な価格と通年の調達が必要。大食いのナマズの餌代を抑えながら育てるすべを養殖業者と研究し、体長30センチ程度のものを提供できるようにした。今ではナマズを求める人の大半が「なまずランチ」を注文する。

 かつての水郷の景観は土地改良で姿を消し、門前に軒を連ねた川魚の店も商売替えが進む。それでも、15年に海津市の「市の魚」に選ばれるなどナマズは今も地域を象徴する魚。「ウナギのような脂はないけど、懐かしい川の味が感じられる」と近藤さん。跡を継ぐ長女(52)と黄金色の看板を見上げ、「参道の文化を消してはいかん」と力を込めた。

◆かば焼きの作り方、秘伝のタレであっさり

 海津市平田町の千代保稲荷神社の門前には、ナマズ料理の看板を掲げる店が軒を連ねる。代表的なかば焼きの作り方を「やまと」3代目の近藤輝明さんに聞いた。

 背開きにして内臓を取り、金串に刺し強火で両面を焼く。創業以来、継ぎ足して使う秘伝のタレに浸しまた焼く。タレはウナギ用とは糖類やたまりの種類、みりんの量を変えた特製で、「ウナギ用よりあっさり味。ナマズの淡泊さを味わってもらえる」という。

 名物の「なまずランチ」はかば焼き、天ぷら、ご飯、コイ汁、おしんこ付きで1480円(近く改定予定)。秋篠宮さま用メニューを再現した「宮御膳」(要予約)も。「おちょぼさんに来たら、御利益あるナマズ料理を」と薦める。

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