佐賀市街地で近年、特定外来生物「アライグマ」が急増している。本年度の捕獲数も昨年度を上回るペースで推移し、住宅でのふん尿や健康被害などが懸念される。市はわなを設置するなど対策を講じるが追いついておらず、対応に頭を抱える。
市中心部、神野東の2階建て住宅に住む西村和雄さん(74)は6月、自宅浴室で頭上から響く、ドタドタという大きな音を聞いた。「まるで子どもが走り回るような音だった」。屋根裏を確認すると、アライグマ数匹と目が合った。
西村さんは知人を通じて民間業者に駆除を依頼し、市にも連絡。結局数日のうちにアライグマ一家は西村さん宅を去って行ったが、屋根裏には大量のふん尿が残されていた。消毒や侵入経路とみられる場所をふさぐなどの費用は約7万円かかったという。
市環境政策課によると、アライグマは市の中山間部で以前から確認されていたが、近年は生息範囲を平野部や沿岸部の市街地まで拡大。捕獲数は2015年度の1匹から20年度には107匹に増加し、21年度は11月中旬時点で既に100匹を超えている。8月には繁華街の同市白山でも姿が確認されたという。
外来種であるアライグマは雑食で繁殖力も強い。人目の付きにくいところを好み、地下水路やクリークなどの水辺を移動することも多いという。同課は「市街地で増えている明確な理由は分からない」としながらも、人間のごみから餌を確保しやすい▽すみかとなる空き家が増えている▽移動に利用しやすいクリークが多い-などの要因があると推測する。
同課によると、アライグマがすみついた住宅では、ふん尿で屋根板が腐食した例などが報告され、電気配線をかじって漏電や火災の原因になる場合も。また国内ではアライグマが狂犬病などの感染症を媒介したこともあるという。
市は本年度改定した「防除実施計画書」で、市街地の生息状況を、改定前(11年度)の「捕獲情報無し」から「増加している」に評価を引き上げ。危機感を募らせるが、駆除には課題も多い。
外来生物法や鳥獣保護法で、アライグマの捕獲と駆除は事前申請が必要で、許可されていない市民が見つけても、勝手に捕まえたり駆除したりすることはできない。そのため連絡を受けた市職員が出向くことになる。だが捕獲と駆除の許可が出ているのは日常的に関連業務に当たる職員5人だけで「通報件数が増えて人手が足りない状況」という。
生息数の全容把握も難しいため、有効な対策が見いだせない中、市は市民との連携を模索する。
捕獲は、わなを仕掛けた後、捕獲されたかどうかを確認したり、餌を取り換えたりする作業も必要。この作業は事前申請が不要なため住民に担ってもらうことで、担当職員がより多くの通報に対応できるようにならないか、検討中だ。
市街地でのアライグマの存在を知らない住民への啓発のため防除の専門家を招いた講演会も計画。急増を抑えるためには発見時の通報とともに、アライグマが隠れるやぶの除草や生ゴミを放置しないことなど、住民の理解と協力が不可欠だからだ。
担当者は「今後も住民の協力を得ながら、効果的な防除態勢の構築に知恵を絞りたい」と話す。佐賀市環境政策課=0952(40)7200。 (米村勇飛)