東京電力福島第1原発事故で住民避難が続く福島県双葉町が、野生化した外来種アライグマの大繁殖に頭を悩ませている。先に避難指示が解除された周辺地域からも集まってきているとみられ、無人の家々にすみ着いている。2022年春の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除を控え、町は住民の帰還への影響を懸念するが、退治は容易ではない。
北米原産のアライグマは1970年代後半、ペットとして国内に大量輸入された。愛くるしい見た目とは裏腹に成長すると粗暴になるため、飼い主に捨てられるなどして各地で野生化が進んだ。福島県内では2006年に浜通り地方で生息が公式に確認された。
雑食、夜行性で環境適応能力が高いのが特徴だ。毎年春から秋にかけて繁殖し、一度に3~6匹が生まれる。環境省福島地方環境事務所によると、帰還困難区域の空き家や廃屋はアライグマの格好のすみかで、屋根裏などに入り込み、子育てをしているという。
町は18年12月に「捕獲隊」を編成したが、現在の隊員は通いの住民4人のみ。町農業振興課の担当者は「動物だらけの町では帰還の気持ちがそがれてしまう。何とかしたいが、一朝一夕にはいかない」とこぼす。
16年4月~21年3月末に双葉町で捕獲されたアライグマは計1113匹。環境省が帰還困難区域で実施している直轄の駆除作戦の効果で個体数は減少傾向にあるとされるが、詳しい実態は分かっていない。
15年に福島大特任教授として双葉町などで野生動物の状況を調べた現広島修道大の奥田圭准教授(野生動物管理学)は「当時調査に入った帰還困難区域の家屋には、ほぼ全てアライグマがいた」と振り返る。
アライグマは生態として頻繁に居場所を変え、行動範囲が広いという。衛星利用測位システム(GPS)を使った追跡調査では、浜通り地方の一部を縦断するような移動が確認されたといい、抜本対策には「すみかになりそうな家屋の解体と物理的な捕獲を同時に進める必要がある」と指摘する。
県は20年度から双葉町を含む浜通りの12市町村の獣害対策を補助する駐在員を富岡町に7人配置。捕獲指導や監視カメラを使った現状分析などを進めている。 県自然保護課の斎藤誠主幹は「避難指示地域はイノシシ被害が注目されがちだが、アライグマ対策も大事。難しいのは承知だが、地域からの絶滅を目指す」と話す。