カンボジアの巨大湖トンレサップ、水位の急落で危機に

【AFP=時事】湖に浮かぶ村に夜が訪れると、漁師のレン・バン(Leng Vann)さんは、たばこを吹かし、トンレサップ(Tonle Sap)に向かってため息をつく。この巨大な内陸湖は何世紀にもわたり、カンボジアの人々の生活を支えてきた。


 湖上と周辺に合わせて100万人以上が暮らすトンレサップ湖は世界最大の内陸漁場だが、気候変動とメコン(Mekong)川上流のダムが原因で水位が急激に低下し、水産資源が減少している。
 湖はかつて、魚介類や野生生物が豊富なことで知られていた。43歳になるバンさんは、網で1日に数百キロもの魚を捕獲できたと振り返る。
 バンさんが暮らす水上家屋は、雨期の終わりである10月中旬に家があるはずの位置より5メートルも低くなっている。そして、湖から網を引き上げても何もかからないのだ。
「私たち漁師は、水と魚で生きています。水と魚がなくなれば、他に何を当てにできるでしょうか」と、バンさんは話す。
■運命の逆転
 世界遺産の自然環境保全地域であるトンレサップ湖は、独特な季節性の逆流現象に依存している。乾期には、湖の水は流れの速い川を通してメコン川に流出する。
 だが、5月から10月までの雨期が来ると、巨大なメコン川の水流が非常に強くなるために逆流が起こり、湖に水が流入する。
 流域の国家間の水利関係を管理する国際機関のメコン川委員会(MRC)によると、流入ピーク時のトンレサップ湖は最も小さくなる時の4倍以上の大きさに拡大し、面積が1万4500平方キロに達するという。
 だが最近、この逆流に重大な遅滞が生じている。
 2019年、トンレサップ湖への流入量は2000年頃の平均水準から約4分の1減少した。
 2019年の大規模渇水や、エルニーニョ(El Nino)現象などの気候変動に関連する気象状態が、トンレサップ湖の危機の一因となっている。
 さらに、メコン川本流全域に大型ダムが十数か所と、支流により小規模のかんがいダムが建設されていることも、川の流れを減速させる要因の一つとなっていると、環境保護活動家らは指摘する。
■生息地の消失
 トンレサップ湖の水位変化が周囲の湿地帯に重大な影響を及ぼしており、湖周辺に生息する絶滅危惧種の動植物の個体数減少を引き起こしている。
 野生生物保全協会(WCS)の最近の研究によると、トンレサップ湖の自然生息地の3分の1近くが2018年までの25年間で消失しており、現在は洪水時には浸水する氾濫原の半分で稲作が行われているという。
■時の変遷
 トンレサップ湖に浮かぶ村々は、何世代にもわたって湖の縮小と拡大に対応してきた。大半は、漁業やカヌーによる村周辺での食料販売で生計を立てている。
 だが現在、渇水と魚の消失により、湖上の村コーチバン(Koh Chivang)の伝統的な生活様式が脅かされている。親たちは水上家屋を維持するために村にとどまる一方、若者たちは仕事を求め都会に出ていく。
「私たち漁師は、水と魚と森林を頼りにしています。これらがなくなったら、何にも期待できないのです」と、バンさんは話した。「おしまいなんです」 【翻訳編集】 AFPBB News
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