撒き餌放置し悪臭も…コロナ禍での釣りブームの一方で迷惑行為急増 マナー違反に元来の釣りファンも困惑〈AERA〉

 空前の釣りブーム。コロナ禍でレジャーが限られる中、屋外で「密」にならずにできるとあって、人気が高まった。だが、それに伴いマナー違反も大きな問題となっている。AERA 2021年1月18日号に掲載された記事を紹介する。


 近年のアウトドアブームに加え、コロナ禍が釣りブームに拍車をかけた。屋外で密にならずに楽しめるアクティビティー。特に堤防や防波堤から魚を釣る「陸っぱり」はファミリー層や初心者にも人気だ。だが陸っぱりの釣り場がなくなる“悲劇”が今、全国で起きている。
■撒き餌を放置し悪臭
 ゴミのポイ捨て、迷惑駐車、ライフジャケット未着用での落水事故、さらに仕掛けや針が船の係留ロープに絡まったり、散らばった撒き餌が放置され悪臭を放ったり。こうした問題が、釣り人が増えたことで深刻化していると言われる。
 堤防がある漁港は、本来は漁業用だ。そこに立ち入って釣りができるのは、単に「黙認」されている状態に他ならない。前述したような問題やトラブルが度を越せば、いつ禁止を言い渡されてもおかしくないのだ。
 神奈川県逗子市の小坪漁港も昨年11月半ばに立ち入り禁止のロープが張られ、「つり禁止」のコーンが置かれた。つい前日まで、小学生や近所のおじいちゃんたちがのんびりと釣り糸を垂れて今日は何が釣れたと報告し合う、憩いの場だった。
 漁港を管理する逗子市によれば、昨年4、5月から急激に釣り人が増え、漁協からの相談を受けて釣り禁止を決定したという。漁協の関係者が説明する。
「そもそも前提として陸っぱりは禁止だが、迷惑をかけない範囲でやってくれるなら、と黙認して共存してきた。ロープに針や仕掛けが引っかかっていたり、夜に酒を飲みながら釣りをした形跡があったり、見過ごせなくなった」
 過去には転落事故もあり、「何かあってからでは遅い」と市の担当者も話す。
 釣りを楽しめる場所がなくなってしまう。危機感から、行動を起こした釣り人たちもいる。
 茨城県北茨城市の大津漁港では「ゴミオフin大津港」と称した大規模なゴミ拾い活動が昨夏から始まった。呼びかけたのは福島県白河市の高崎智央さん(44)。親子3代の釣り好きで、10代から同漁港に通ってきた。
「以前からゴミは拾っていましたが、お盆休みにはすごいゴミの量で一人ではとても拾いきれませんでした」
■黙認に誠意で応える
 ツイッターで呼びかけたところ、釣り仲間や漁協の職員、近隣のコンビニのオーナーなども賛同してくれた。昨年8、9月、12月と回を重ねるごとに参加者が増え、3回目には140人ほどの釣り人や地元住民が参加。集まった軽トラ5台分のゴミの中には家庭ゴミも含まれていたが、半分は釣り人によるゴミではないかと高崎さんは嘆く。
「大津港は30年近く通う思い入れのある場所。震災でも打撃を受けたけれどいろんな人の尽力で復興した。漁港を思う気持ちは釣り人も一緒。漁協の人たちは(釣り人の存在を)黙認してくれています。それにどう誠意で応えるか、だと思うんです」
 YouTubeで人気の釣りチャンネル「ちゃんねるよしゅあ」を運営するよしゅあさんも、釣り人のマナー向上に気を配る。
「僕自身気をつけているつもりでも、つい注意事項の看板を見落としたり、事前の確認不足で釣り場のルールを破ってしまうことはあります。同じような人を減らせたらと思い、動画内では各釣り場の禁止事項やルールを毎回詳しく伝え、清掃パートも設けるようにしています。事態を改善して、釣り場を一つでも多く後世に残していきたい」
 海に囲まれたこの国で長く受け継がれてきた釣り文化。その未来は一人ひとりの釣り人の良識にかかっている。(編集部・高橋有紀)
※AERA 2021年1月18日号
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