カブトムシと同じ甲虫類に属し、昆虫好きの子供らに人気のカミキリムシ。だが光沢のある黒い体と赤い首回りが特徴の「クビアカツヤカミキリ」には注意が必要だ。外来生物法に定める特定外来生物で、サクラやウメなどの樹木が食い荒らされる被害が各地で深刻化。新型コロナウイルスの影響で増殖している可能性もあり、行政は「見つけたら殺処分するか、役所に連絡を」と呼びかけている。(井上浩平)
■年に最大3キロ移動
「農家ではクビアカと呼ばれて、本当に嫌われている。捕まえて頭をひねって踏みつけたりする」
こう話すのは、徳島県立農林水産総合技術支援センターの中西友章統括研究員だ。
クビアカツヤカミキリは名前の通り首(胸部)が赤くて全身が黒光りし、お香に似たにおいを放つ。体長3〜4センチでサクラやウメ、モモといったバラ科の木の幹や枝の割れ目に産卵し、幼虫は内部に入り込んで食い荒らす。
2〜3年で成虫になり、6〜8月ごろ外にあらわれる。人への攻撃性は高くないが、食害を受けた樹木は衰弱して枯れたり実が大きくならなかったりする。農家が嫌うのは、こうした理由からだ。
原産地は中国や台湾などで、日本では平成24年に愛知県で初めて見つかった。輸入木材やコンテナに付いて入ってきたとみられる。生態系に被害を及ぼすとして30年に特定外来生物に指定され、昨年までに生息地域は大阪や東京、群馬、徳島、奈良など少なくとも11都府県に広がっている。
大阪府立環境農林水産総合研究所の分析で、成虫の年間移動距離の平均が最大3キロに及ぶことも判明。被害が隣接地に拡大するだけでなく、「飛び地」のような分布も確認されている。
■花見自粛が裏目?
脅威は、その繁殖力だ。成虫の寿命は約2週間と長くはないが、“宿主”の樹木から外に出てすぐに交尾ができ、メスは約千個の卵を産むことも。幼虫は木の中で生き続けるため、伐採した木は安易に動かしたり放置したりせず、焼却もしくは粉砕する必要がある。
意外なことだが、今年は新型コロナの影響で成虫が増えている可能性があるという。
大阪府立環境農林水産総合研究所の担当者は「例年なら食害で弱っているサクラに花見客が気付くこともあるはずだが、今春はコロナの感染防止のために花見が自粛された」と説明。各自治体は花見シーズンを過ぎた6月ごろまでコロナ患者の対応で駆除に動けなかったこともあり、「全体的にクビアカ対策が後手に回ってしまった」と悔やむ。
ある研究者によると、日本で見つかった当初は「珍しいカミキリ」として昆虫マニアに人気で、1匹あたり数千円で取引されたことも。ただ飼育や持ち運び、売買などが原則禁止される特定外来生物への指定後は「害虫」との認識が広まり、捕獲する人もいなくなった結果、野放し状態という。
■懸賞金や実物展示も
こうした状況の中、各地の自治体は撲滅に向けて知恵を絞っている。
群馬県館林市は成虫400匹を上限に1匹あたり50円で買い取る“懸賞金制度”を導入し、昨年は6648匹を捕獲した。
同市地球環境課は「専門家から、産卵数で換算して1400本のサクラを守ったと評価された」と胸を張る。今年も5〜8月を買い取り期間とし、すでに3千匹が持ち込まれたという。
徳島県立農林水産総合技術支援センターは防除方法の研究のため、一般に資金を募るクラウドファンディングを実施。全国から約550万円を集め、合成フェロモンを使った大量捕獲技術の開発に取り組む。
「被害の拡大初期」という大阪では、府立環境農林水産総合研究所が「実物を目の当たりにし、危機意識を高めてもらいたい」として、環境省の協力のもと、寝屋川市の研究施設で西日本初となる生きたクビアカの展示を行っている。
撲滅には、何よりも速やかな駆除が欠かせない。環境省はクビアカを見つけた際の対応として、個体の生死にかかわらず各地方環境事務所や自治体に連絡するよう要請。可能な場合は写真撮影や殺処分を求めている。
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