激減のニホンミツバチ復活で極上の梅を 和歌山・みなべ

 日本屈指の梅産地・和歌山県みなべ町で、梅の授粉を担うニホンミツバチを呼び戻す試みが始まった。授粉に外来種のセイヨウミツバチが用いられるようになって激減したため、町民有志が「ビーフォレスト・クラブみなべ百年の森」を結成し、3月にニホンミツバチ用の巣箱を設置。国内では戦後、ニホンミツバチが蜜を採取できないスギやヒノキの人工林が増加しており、同会は「ニホンミツバチとともに、さまざまな木々が共生する本来の森を復活させたい」と意気込んでいる。(張英壽)


■外来種が用いられ減少
 各地で巣箱を設置してニホンミツバチ復活の活動を続ける奈良市のNPO法人「ビーフォレスト・クラブ」の吉川浩理事長(68)によると、ニホンミツバチは多様な植物の授粉を担い、農業にも生かされてきた。しかし、農作物の授粉に外来種のセイヨウミツバチが用いられるようになり、減少。近年はさらに姿を見せなくなり、「巣箱を設置してもニホンミツバチが入らない」といった報告が相次いでいる。ダニによる感染症が広がっていることなどが原因という。
 みなべ町でも現在、梅の授粉をしているのはセイヨウミツバチが大部分で、ニホンミツバチは減少。昨年秋以降は目に見えて数が減り、「巣箱からいなくなった」という声も寄せられるようになっていた。
 今年1月、ビーフォレスト・クラブの吉川理事長が町内で講演し、森の中でニホンミツバチの授粉が大切な役割を果たしていることを強調。講演を聞いたニホンミツバチの養蜂家や地元の森林組合関係者ら8人が有志の会「ビーフォレスト・クラブみなべ百年の森」を結成し、「ビーフォレスト・クラブ」に加盟した。
■広葉樹広がる本来の森に
 活動拠点とする場所では、みなべ町が植生豊かな「みなべ百年の森」にする計画を立てている。最近十数年の間にカシやシイなどニホンミツバチが蜜を採取する広葉樹が植樹されたが、ニホンミツバチの巣は確認されていないという。
 ニホンミツバチは本来、木の幹にできる空洞部分に巣をつくるとされ、同会は3月1日、こうした空洞部分の代わりとなる巣箱を設置。ビーフォレスト・クラブの吉川理事長から「東から南の方向に入り口が向くように」などの助言を受け、メンバーらが計8個を置いた。
 ビーフォレスト・クラブの川上敦弘副理事長(50)は「ミツバチの巣作りは3月末からゴールデンウイークまでの時期に行われる。周りの山には雑木林も見え、成功する可能性はある」。吉川理事長も「ニホンミツバチと生態系の関係を全国に広めてほしい」と期待している。
 「ビーフォレスト・クラブみなべ百年の森」の下村勤会長(76)は「今後は巣箱を年に5〜10個ほど増やし、町内の養蜂家に分けたい。地道な活動を続け、本来の山の姿に戻していきたい」とした上で、「ニホンミツバチが町内の農家で広く使われるようになれば」と話す。今月下旬には、巣が作られたか確認する観察会を計画している。
■「梅システム」は世界農業遺産
 和歌山県は梅収穫量が全国の約65%を占め、昭和40年から昨年まで55年連続で全国1位となっている。農林水産省の統計から、県が市町村別に推計したところ、平成30年はみなべ町が最多、隣接する田辺市が2番目に多く、両市町を合わせると県内の約85%を占めた。
 両市町は約400年にわたって高品質な梅を持続的に生産してきたとされ、国連食糧農業機関(FAO)が2015(平成27)年に「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認定した。授粉などニホンミツバチと梅との共生関係も評価された。
 ただ、ニホンミツバチは減少し、みなべ町内の梅農家の大部分は業者から納入されたセイヨウミツバチで授粉を行っているのが現状だ。
 町うめ課の担当者は「ニホンミツバチの生息環境を守らないといけないが、梅栽培は時代とともに変化している」としている。
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