こっそり忍び込んだ「秘密の遊び場」川南湿原を守り続け30年…草刈りや外来種除去、貴重な自然を次世代に

川南湿原を守る会事務局長・松浦勝次郎さん(74)
 30年以上にわたって地元宮崎県川南町が誇る国の天然記念物「川南湿原」を守り続けてきた。「ここにしかない貴重な自然を次世代に引き継ぎたい」。そんな思いから日々湿原を見回り、草刈りなど骨の折れる作業に精を出している。

 1954年に貴重な植物が自生していることが判明した同湿原は、近くに住んでいた幼少期の自身にとっては秘密の遊び場だった。国立療養所宮崎病院(現・国立病院機構宮崎病院)に隣接していることもあり、「大人たちからは『近づくな』と言われていた」。それでもこっそり忍び込んでは、釣りなどを楽しんでいた。

 家業のハウス園芸を継いだ後も、湿原のことは頭の片隅にあった。74年、「川南湿原植物群落」として国の天然記念物に指定されたものの、管理は十分ではなく水面は外来種を含めた草に覆われて荒れる一方だったからだ。

 ようやく町が95年から湿原の調査や整備を開始した際、町の文化財保護審議委員を務めていた縁で、自身も草刈りなどの作業に関わるようになった。

 より保全に力を入れようと、2003年に有志4人で「川南湿原を守る会」を発足させ、事務局長に就任した。毎冬には全面の草を刈って野焼きを行い、外来種の除去を続けた結果、湿原の環境が改善。半世紀前に絶滅したとみられていた「ヒュウガホシクサ」の自生も確認されるなどし、湿原の価値や保全の必要性が徐々に理解されるようになった。

 湿原は観察道の整備が進み、09年から一般公開されている。希少種の盗難被害も起きたため、会として町から委託を受け、湿原内の管理棟に常駐。合間を縫って他地域の湿原への視察や標本の調査も続けている。「川南湿原には、まだ調査すれば固有種と断定されうる種があるはずだ」と意欲的だ。

 環境学習や自由研究で小中学生も多数訪れる。熱心に質問をする子どもらに植物学者を紹介することも。「その中から一人でも湿原の研究者に育ってくれたらうれしいですね」と目を細める。(波多江航)

「ヒュウガホシクサ」「ウメバチソウ」

 約3万年前に誕生したと推定される川南湿原は川南町のほぼ中央部に位置し、すぐそばには国道10号が通る。面積は約3・3ヘクタールで、西側の湧水池から東側の湿原にかけて植物群落が広がる。川南町教育委員会によると、自生する約300種のうち約50種は希少植物という。

 今年の開園期間は11月30日までで、10、11月は午前9時~午後4時。無料で見学できる。10月は固有種で薄緑色の星形の花を付ける「ヒュウガホシクサ」が見られるほか、白い花が咲く「ウメバチソウ」もこれから見頃を迎える。問い合わせは町教委教育課(0983・27・8020)へ。

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