山の中で見たスミレのお花畑は、自然そのものではなかった。アメリカスミレサイシンシンが訴える危機感

 この春、長野県の山道を車で走っていたら、車道脇の斜面を埋めるスミレの花が見えた。一体何のスミレだろうと思って車を止めて斜面を見る。なんと帰化植物のアメリカスミレサイシンだった。

 通常のアメリカスミレサイシンは濃青紫色の花色だが、この山に生えていたのは、花弁の外側が白く中心部が青紫色のプリケアナ(Priceana)と呼ばれるタイプの園芸種のスミレだった。

 車道に沿って園芸植物のアメリカスミレサイシンが、美しい雑木林に長い距離にわたって生えていた。アメリカスミレサイシンは、スミレとしては大きめで美しい植物だ。このため、その群落はキレイなことはキレイなのだが、これを長野県の山中で見た私には強烈な違和感があった。

 アメリカスミレサイシンという名前の通り、このスミレは日本の植物ではない。公園や庭に植えられていたものである。それが日本の自然の中に大量に生えていたのは、日本の自然を見慣れている私にとって、かなり異様なものであった。

 本来、このような明るい雑木林の林下には、タチツボスミレなどの日本のスミレが生えているべきである。しかし、アメリカスミレサイシンがここまで増えてしまうと、タチツボスミレが生えることができなくなる。アメリカスミレサイシンばかりが勢いよく増えてしまい、太陽光や栄養を独占してしまうのだ。

 アメリカスミレサイシンが咲いている斜面をよく見ると、日本の野山にもともと自生しているタチツボスミレが、アメリカスミレサイシンに混じってわずかに生き残っていた。しかし、このアメリカスミレサイシンの勢いでは、タチツボスミレが近い将来になくなってしまうのではと、私は危惧した。

 外来の帰化植物が、山の中ではなく砂漠に似た不自然な環境の都会で増えてしまうのはよくあることだ。しかし、自然状態の山でこれほど増えてしまうと、日本古来の植物に対する影響があまりにも大きい。

 たとえば、日光にある湿原、戦場ヶ原などに入り込んでいるオオハンゴンソウは大繁殖してしまい、日本に昔から生えている貴重な湿原の植物を押さえ込んでしまった。今ではオオハンゴンソウを駆除するために、人の手で1本1本抜いていくしかない状態だ。

 これらの帰化植物は、とても美しい花を咲かせるので、人間によって庭や公園で増やされてきたものである。それが逃げ出し、山や湿原、草原などの日本古来の自然が残っている場所で、さかんに増殖している場合がある。このまま放置しておけば、日本の山や湿原、草原が外国から来た帰化植物ばかりになってしまう。さらには貴重な日本の固有植物が絶滅してしまう可能性が高い。帰化植物を日本の自然に増やすことは、環境破壊に他ならない。

 庭や公園に植えてある植物は、野山に逃げ出さないようにきちんと管理する必要がある。園芸植物はキレイだが、だからといって、家の外まで園芸植物の種をまくなどは絶対に行ってはならない。園芸植物については、それぞれがその土地の中で責任をもって管理すべきである。そうすることが、日本の植物を守ることになる。

 このアメリカスミレサイシンのお花畑は、一見美しいが、環境破壊の始まりの姿でもあるのだ。日本の自然の中に入ってしまった外来植物は、まず外に出さないことが大事だが、早めに駆除しないとあとで大変になることも知ってほしい。そして、日本古来の植物が自生している野山に、外来の帰化植物の生えている光景はおかしいことだと知ってほしい。

 日本の植物を移動させることも同じことがいえる。東京都内の山の中に、もともとそこに生えていないはずの植物が発見されたこともある。新潟県に多いオオミスミソウが、自生地でない山に勝手に植えられていることもある。このように、そこに生えていない植物を、環境への影響を考えないまま、人の手で勝手に移植することも環境破壊なのである。

髙橋 修
自然・植物写真家。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

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