ザリガニやヒキガエルを逃がしたら、罰金300万円!?

 法律を知れば、見える景色がきっと変わる。町中やビジネス、話題のニュースなど、私たちの日常にひそむ「ふしぎな法律」。そのモヤモヤを解き明かしていきます。知っていますか? ヒキガエルやザリガニを逃がしたら、罰金300万円!? 今回追うのは、身近な生き物にまつわる法規制の動向。弁護士の著者による描き下ろしのイラストも添え、『世にもふしぎな法律図鑑』(中村真著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けします。

●おなじみの生き物にも法規制

 子どものころ、さきイカを餌にザリガニを釣ったり、田んぼのあぜ道でカエルを捕ったりした方もいらっしゃるでしょう。

 ところが、今やおなじみの生き物にかかる法規制がどんどん厳しくなっていることはあまり知られていません。大人になったあなたが子どもと一緒に生き物を捕まえにいくとき、気を付けなければならないことはなんでしょうか。

●罰金300万円や懲役刑もありうる

 「外来生物法」と呼ばれる法律があり、我が国の生態系・生物多様性や人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展のために、有害・危険な生物を「特定外来生物」に指定し、それらを飼う等の行為を規制しています。

 一昔前、この法律によってブルーギルやブラックバス(コクチバス、オオクチバス)がやっかいな外来種であるとして問題にされ、バス釣り愛好家を中心に議論の的になっていたのは記憶に新しいところです。

 特定外来生物に指定された生き物については、飼育したり、保管・運搬したり、輸入・授受したり放出(逃がすこと)したりという行為を許可なく行うことが禁止されています。これに違反した個人は3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(場合により両方が科せられます)。

 実際、令和元年(2019年)には、特定外来生物(毒性のかなり強い蛇)を飼育していたペット販売店の店員について、外来生物法及び動物愛護管理法違反の罪で執行猶予付きの懲役刑が言いわたされた事案もありました(大阪地判令和元年6月20日・ウエストロー・ジャパン掲載判例)。

 この法律自体、平成16年(2004年)に成立した比較的新しいものですが、近年、指定される動物が増えています。

ヒキガエルについての規制、知ってる?

 実は、田園風景にはおなじみのヒキガエルにも特定外来生物が存在します。

 令和6年(2024年)8月の時点で、「両生綱無尾目ヒキガエル科」のうち海外にルーツを持つ9種が指定されています。やっかいなことに、このうちオオヒキガエルだけは小笠原諸島(父島、母島)や大東諸島(北大東島、南大東島)、先島諸島(石垣島、西表島、鳩間島)などにすでに定着してしまっています。

 一方、「ヒキガエル」と名のつくものでも、アズマヒキガエルやニホンヒキガエルといった日本固有種は特定外来生物ではないので、飼ったり逃がしたりしても外来生物法の規制にはかかりません。

 とはいえ、日本固有種のヒキガエルも国内の生息地はかなり限られるので、捕獲した上で異なる場所に逃がすことでその地域の在来種との間で交雑が進み、生物多様性が損なわれてしまうなどのドメスティックな問題も実は深刻化しています。北海道など、特定外来生物でない日本固有種の運搬や自然環境中への放出を条例で禁止している自治体もあります。

 結局、特定外来生物でないヒキガエルであっても、いったん飼うつもりで手元に置いた以上は、(そのガマ自身が望むと望まざるとにかかわらず)その命が尽きるまで面倒を見てあげるべきであるといえるでしょう。

●日本国民になじみ深い「赤い水生」も対象に

 意外にも、我が国でなじみの深いザリガニ類の多くも特定外来生物に指定されています。

 ザリガニがやり玉に挙げられるのは、彼らが水草の切断や他の水生生物の捕食などで劇的な生態系の変化を引き起こすこと、在来種(ニホンザリガニ)に危険を及ぼす病気の保菌者となるリスクが高いことなどが理由です。

 ウチダザリガニ、ヤビーなど一部の種は前から特定外来生物に指定されていましたが、令和2年(2020年)11月からはその範囲が一気に広がり、アメリカザリガニを除く外来ザリガニ類の全てが指定を受けることとなりました。

 もっとも、指定の前からすでに飼っている個体を駆除しなければならないわけではなく、指定から6カ月以内に環境省の地方事務所等に申請して許可を受けることで飼育(飼養)を続けることは可能とされていました。新たな飼育や輸入、譲渡、繁殖、野外への放出ができなくなったというわけです。

 そのような規制の強風が吹き荒れる中、我々日本人に特になじみが深いアメリカザリガニだけは猶予期間が設けられていたのですが、ついに令和5年(2023年)6月1日からはアカミミガメとともに特定外来生物とされました。

 ただし、国民人気の高いこの2種はやはり別格で、すでに多くの家庭で広く飼育されている実情も考慮し、一般家庭での飼育(飼養)や無償での譲渡は適用除外(処罰の対象外)とされる「条件付特定外来生物」という地位を与えられました。

「飼っても逃がしてもいけない」の板挟み

 特定外来生物は、無許可飼育が禁止される一方、自分の占有下に入ったものを自然環境中などへ逃がすことも禁止されています。万が一、誘惑に負けて持ち帰ってしまったあとに「こいつは例のオオヒキガエルではないか」などと気づいたときには、お住まいの自治体のしかるべき部署に相談することをおすすめします。

 特定外来生物根絶のために捕獲の協力を呼びかけている自治体も多いようです(その場合、発見・捕獲した場所の報告も求められることでしょう)。自治体に引き渡したオオヒキガエルがその後どのような運命をたどるのかを考えると暗い気持ちになりますが、それはあなたの行動にかかわらず彼が負っていた運命だと考えるしかありません。

【特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)】

(放出等の禁止)

第9条 飼養等、輸入又は譲渡し等に係る特定外来生物は、当該特定外来生物に係る特定飼養等施設の外で放出、植栽又はは種(以下「放出等」という。)をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

1号 次条第一項の許可を受けてその許可に係る放出等をする場合

2号 次章の規定による防除に係る放出等をする場合

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