人々に愛されるネコ、実は世界最悪レベルの「侵略的外来種」

 動物種の絶滅原因を考えるとき、すぐに頭に浮かぶのは、ネズミやヘビといった侵略的外来種だ。そして、気候変動も例外なく関わってくる。

 しかし現実には、絶滅原因リストのなかで、意外な動物が存在感を放っている。私たちにとって身近な友達であるイエネコだ。

 ネコは愛らしく、害のない伴侶動物に思えるかもしれないが、彼らが世界の生態系に与える影響は軽微とは程遠い。やわらかな毛皮と遊び好きな気質に惑わされてはいけない。ネコは、自然界で屈指の凄腕の捕食者であり、隠密行動、高い適応力、無慈悲な殺戮で知られる。

 ステルスモードで移動するネコを見かけたら、それは、在来動物に忍び寄り、捕食しようとするところである可能性が高い。選り好みしない食性と、底なしの食欲をもつネコは、イエネコかノネコかを問わず、数々の種の絶滅を引き起こしてきた。だからこそ、世界で最も侵略性の高い外来肉食動物の1つに数えられるのだ。

 2016年7月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された論文では、鳥や哺乳類からその他さまざまな小動物まで、近現代に起こった63種の動物が絶滅した原因として、ネコが名指しされている。そして新たな研究により、愛らしく小柄な彼らがどれほど甚大な被害をもたらすかが、さらに具体的に明らかになった。

■2000種以上がネコの餌食に

 ネコは一般的に、少なくとも食に関する好みにはうるさくない。

 2023年12月に学術誌Nature Communicationsに掲載された論文には、ネコが捕食した2084種の動物が記録されている。このうち347種は、国際自然保護連合(IUCN)が準絶滅危惧種、絶滅危惧種、絶滅種に分類する種だった。

 オーストラリアだけでも、ノネコは年間20億個体以上の在来動物を殺しており、小型有袋類、爬虫類、地上営巣性の鳥類の個体数激減を引き起こしている。

 米国では、イエネコとノネコが毎年、約24億羽の鳥と、約123億匹の小型哺乳類に死をもたらしている。

 数字で見るかぎり、ネコは他のどの分類群の動物よりも、鳥の翼を折り、骨を砕くのが好きなようだ。ネコの餌食になった2084種のうち981種は鳥で、463種の爬虫類がこれに続いた。

 絶滅にネコが関与した種の代表例に、1900年ごろに絶滅したニュージーランドの飛べない鳥、スチーフンイワサザイ(学名:Traversia lyalii)がいる。分布していたスティーヴンズ島に、灯台守の家族などが、ティブルズと名づけられたイエネコをはじめとするネコたちを持ち込んだことで、この種の減少は加速した。

島の食物連鎖の頂点に立つネコ

 ほかにも、絶滅したニュージーランド固有種のニュージーランドウズラ(学名:Coturnix novaezelandiae)や、ハワイに固有の野生絶滅種(飼育下のみで生息)であるハワイガラス(学名:Corvus hawaiiensis)など、さまざまな種が犠牲になった。

 ハワイガラスについては、野生への再導入計画が進行中だが、ネコが島の生態系にもたらす悪影響に疑問の余地はない。これは、島に生息する在来種がとりわけ無防備であるためだ。例えば、ガラパゴス諸島に分布する、絶滅寸前のガラパゴスシロハラミズナギドリ(学名:Pterodroma phaeopygia)にとっては、依然としてノネコが最大の脅威だ。

■島の食物連鎖の頂点に立つネコ

 ネコによる生態系の破壊は、島と本土とで大きく異なる。

 島に生きる在来種はしばしば、主要な捕食者がいない環境で進化してきた。そのため、ネコが壊滅的被害をもたらすことがある。地上営巣性の鳥類、動きの遅い爬虫類や小型哺乳類は、とりわけ無防備だ。

 これらの種が自衛手段をもたないことと、ネコの高い狩猟能力が合わさった結果、個体群の崩壊や絶滅が引き起こされてきた。

 島の生態系は本質的に脆弱で、ネコのような頂点捕食者の導入は、その繊細なバランスをかき乱す。事実、島の生態系では、ネコのせいで保全上の懸念対象となる種が、本土の生態系と比べて3倍とされている。

 本土でのネコの影響には、ばらつきがある。

 本土の在来種はふつう捕食者と共存してきた歴史をもつが、それでもネコは、とくに都市と郊外の環境において重大な脅威となる。こうした環境で、ネコは断片化した生息地に侵入し、小型哺乳類や鳥類の健全な個体群を食い荒らし、もとより人間の開発圧を受けている生態系をさらに脅かすのだ。

 ネコの存在が在来捕食者を圧倒し、それらに取って代わることで、食物連鎖を撹乱することもある。ただし、本土では概して、捕食者や競合種の多様性の高さが影響を緩和するため、島々で見られるレベルの惨状に至ることはない。

■ネコはなぜ、これほど恐るべき捕食者なのか?

 ネコの侵略性は、生物学的特徴と、ヒトからの援助の両方に起因しており、その複合効果は壊滅的なものになり得る。

・高い繁殖能力

 1匹のメスネコは、最適な条件下では、生涯に最大180匹の子を産むことができる。このような指数関数的な増殖により、ノネコの個体群は、特に食料が豊富で捕食の脅威がほとんどない環境では、短期間で定着し急速に拡大する。

・汎用の狩猟スキル

 ネコは、多様な獲物を捕殺することができ、鳥類、齧歯類、爬虫類に加え、昆虫までも捕食する。飛び出し式の爪、鋭い歯、鋭い夜間視覚、卓越した聴覚をもつネコは、昼夜を問わず優れたハンターとして活動する。

・肉だけで生きていける

 ネコは、腹が満たせるかぎり、どんな動物の肉も口にする。長い進化の歴史のなかでネコは、動物組織とそこに含まれる代謝水だけで生きていける能力を身につけた。これによりネコは、フレキシブルな捕食者として、食性をたやすく順応させ、どんな環境でもしたたかに生きられる。

・行動面での順応性

 単独性かつ地上性のハンターであるネコは、忍び寄りと待ち伏せの戦術で、獲物の不意をつく。ネコの辛抱強さと執拗さにより、極めて用心深く目立たずに行動する動物でさえ、彼らの餌食になってしまう。

・ヒトによる援助への依存

 他の侵略的外来捕食者と異なり、イエネコは、ヒトから直接的および間接的な援助を受けている。ノネコの多くは、残飯、生ゴミ、あるいは善意の人々による意図的な餌付けに依存しており、これにより餓死など自然界の淘汰圧を回避している。十分に餌を与えられたイエネコでさえ、楽しみのために狩りをして、生態系に悪影響を及ぼす。

 ネコによる捕食被害は甚大だが、生態系撹乱を防ぐ取り組みにおいては、しばしば「定着地からの排除」以外の方法が取られる。ノネコの個体数抑制を目的とした手法である、TNR(捕獲・不妊化・再放獣)などだ。しかし、ネコはほぼすべての陸地に存在し、新たな土地への進出能力も高いことから、ネコが南極を除くすべての大陸で影響を及ぼし続けることは避けられない。

 ネコは多くの人々にとって最愛の伴侶だが、世界最悪レベルの侵略的外来種という側面を考えれば、責任ある飼育が重要であることは明らかだ。伴侶動物への愛情と、危機にある野生動物を保護するための緊急措置を両立させることは、難しい課題ではあるが、現代の自然保護における私たちの義務と言える。

Scott Travers

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