3千万年以上前から形態が変わらないとされ「生きた化石」とも呼ばれる国の特別天然記念物オオサンショウウオ。世界最大級の両生類で、岐阜県が生息域の東限とされる。県内の生息地として知られる郡上市では和良町の和良川や支流の鬼谷川を中心に多くの在来種が確認され、地元では昔から「はざこ」の呼び名で親しまれている。今から約100年前に生息地として国の天然記念物に指定された和良川だが、なぜオオサンショウウオが多く生息するのか。そこには生育に適した環境と、種の保存に取り組む地域住民らの努力があった。
「オオサンショウウオは希少な生物で、守っていかなければならないものだと知ってほしい」と話すのは、地元の「和良おこし協議会」の加藤真司事務局長。これまで和良川で、子どもたちを対象としたオオサンショウウオ観察会などを定期的に開き、生態の神秘や水環境の大切さを広めてきた。
オオサンショウウオは、岐阜県以西の本州と四国、九州の一部が生息域とされ、郡上市内では和良川をはじめ、鬼谷川や長良川支流の小間見川(大和町)に生息している。1927年に和良川とその支流全域が生息地指定を受け、32年には鬼谷川流域、翌33年には小間見川流域が追加指定された。成体は60~90センチほどの大きさになり、つぶらな瞳と大きく裂けた口が特徴で、その独特な見た目からファンも多い。「はざこ」の由来は諸説あるが、清流の横穴や岩の間に潜むことから「間(はざま)の子」で「はざこ」になったとも言われる。
オオサンショウウオが生息する理由の一つに、和良川の特徴との相性の良さが考えられる。和良川は、山間部の中でも開けた場所を流れ日当たりも良く、2012年5~9月の調査では岐阜市の長良川とほぼ同じ水温を記録するなど、標高350メートル前後の上流の川としては比較的夏場の水温が高い。また、源流部には郡上鍾乳洞や美山鍾乳洞などがあることから、湧き水や地下水が流れ込む影響で水温が安定し、冬も冷たくなり過ぎず夏でも極端に暖かくならない、水生生物にとって生活しやすい水温と言える。環境省の「平成の名水百選」に選ばれるほどの清流に加え、流れが緩やかで日当たりも良いことから微生物や藻類がよく育ち、それらを餌とする鮎をはじめ、小魚や水生昆虫が数多く生息している。その結果、川の生き物を食べるオオサンショウウオにとっては絶好の餌場となっている。
一方、全国各地では在来種が減り、人為的に持ち込まれた近縁種のチュウゴクオオサンショウウオとの交雑が進む。昨年8月には下呂市金山町菅田桐洞の菅田川で、交雑種を県内で初めて確認。菅田川で捕獲された個体のうち3分の2が交雑種だったという。和良川での交雑種は確認されていないが、加藤事務局長は「在来種がどんどん駆逐されている状況。誰かが外来種を持ち込む可能性もあり徹底して防ぐのは難しい」と危惧する。
交雑種問題を受け、今後は加藤事務局長を中心に調査チームを立ち上げ、和良川のオオサンショウウオを守るための取り組みに力を入れる。和良町を中心にオオサンショウウオの調査を行い、同町の観察会にも参加する岐阜大地域科学部の向井貴彦教授は「オオサンショウウオがいる地域は他にもたくさんあるが、和良川は100年ほど前から生息地として天然記念物に指定されている特別な場所。せめて和良川だけは在来種を残したい」と話した。