ピラルクやカミツキガメなど9割が外来種の京都の水族館、「入場無料」続ける理由を訊いた

 2月某日、「昨日も来館の方から『なぜ?入場無料?』と質問されました」からはじまるポストをX(旧ツイッター)に投稿した、京都にある「花園教会水族館」(京都市右京区)。「入場料無料」を徹底することで、居場所のない子どもたちが駆け込める場を作るという同館の取り組みは、瞬く間に拡散され(2.6万いいね)、さまざまな意見が飛び交っている。

 調べてみると、同館は完全寄付で運営されており、さらには全国的にも珍しい「外来種」をメインに扱っているという。そんなことは可能なのだろうか? 「花園教会」の牧師で水族館の運営をおこなう篠澤俊一郎さんに聞いた。

■ 現状を理解してもらうため、外来種を中心に展示

──部屋(約54平米)を埋め尽くすほどの水槽やケースに圧倒されています。こちらは何種類ほど展示されているんでしょうか?

この間、子どもたちが数えてくれたんですが、今は208種類いるそうです。

──そんなに! そうなるとお世話も大変じゃないんですか?

エサやりは、基本的にここに通う近隣の子どもたちが週に2回おこなっています。10人ほどで分担し、それぞれが担当しているエリアごとにエサをあげます。生きものの種類により、エサのサイズやタイプも変わるため1時間ほどかかりますね。

──なるほど。それにしても、ほかの水族館や動物園ではなかなか見かけないような生きものが集まっていますよね。

ここの生きものたちはゾウガメやピラルク、カミツキガメなど9割が外来種となっています。購入したり、もらい受けた生きものもいますが、全体の6割ほどが捨てられていたものや買えなくなった飼い主さんから保護しています。

──6割が保護された生きものなんですね・・・。そのなかでも、外来種ばかりを展示するのはなぜなのでしょうか?

犬・猫の保護団体は多く存在しますが、外来のカメ・トカゲなどを中心とする生き物を保護する団体はまだ少ないんです。京都の場合は鴨川や神社など自然豊かな場所に捨てられるケースが多いんですが、ほとんどの場合、殺処分になってしまうんですね。特に温度調節が難しい爬虫類などは、電気代が高くなる11月ごろに捨てられてしまう傾向があります。私も保護活動をするうちにそういった現状を知りました。外来種の危険性ばかりが報じられて、人間が飼いきれずに捨ててしまうこと、十分に説明をせずに売ってしまうペットショップが存在することはあまり知られていないと感じます。そういったところを伝えていかないと、というのも活動する理由のひとつですね。

──私もそんな現状とは知りませんでした。これだけの生きものがいると、設備やエサ代だけでも維持費が大変なのでは?

最初はほぼ100%自己負担で、もう死ぬかと思いました(笑)。ちなみに、いくつかのケースや展示スペースはDIYで自作しています。私は教会の牧師が本業なので、教会側も支援してくれているんですが、やはり限界があって。そのころ友人がAmazonの「欲しいものリスト」を使っているのを思い出して、そこから物品寄付を募るようになりました。現在ではエサやライト、砂、必要な設備はほとんど寄付で成り立っています。おかげさまで私の負担もどんどん減り、現在では1割未満となりました。

──すごい! それだけ活動を支持したい方がいるんですね。

「日本では寄付文化が無い」といわれていますが、実態が見えにくいから寄付できないだけでは?と思っていて。じゃあ見える形でお願いしよう、ということで欲しいものリストを活用し、寄付してもらったものは「何に使われているのか」とSNSで逐一報告するようにしています。
さらに、住所がわかっている方に対しては、SNSだけじゃなく手書きで手紙を送るなど、「アナログ」な形でお礼をするよう心がけています。そうするとリピーターの方も増えて、継続して支援していただけるようになりました。

来館者へのガイドも、子どもたちが担当

──なるほど、そういった寄付やクラウドファンディングのおかげで、「入場無料」を維持できているんですね。子どもが運営に関わるというのも、水族館としては珍しい形ですよね。

この水族館自体、教会で出会った男の子の「生きた魚を見たことがない」という言葉からはじまりました。最近は「飼育小屋」がある学校も減っていますし、子どもが生きものとつながる場所はどんどん減っています。
ここに遊びにやってきた子どもたちに、生きものとの触れ合いを通して外来種にまつわる背景や生き物・環境問題への興味を持ってほしい・・・という思いから、コロナ禍から子どもたちに役割を与えて生き物のお世話をしてもらうシステムを作りました。

──現在のシステムはコロナ禍から始まったんですか?

これまでは、生きものが好きな子が自由に世話をするという形だったんです。でも、コロナ禍で以前にも増して触れ合う機会が減ったので、興味がない子にも実態を知ってもらいたいということで制度化しました。
ちなみに、来館者が来た際のガイドも子どもたちが担当しています。はじめは私の解説を聞いて勉強してもらうんですが、そこからは各々が「推しの生きもの」を見つけるんですね。そこから自主的に学ぶようになって、僕も「そうなの!?」と驚くような新しい知識を教えてくれたりして。

──今回話題となったXの投稿にもあったように、子どもたちの居場所づくりにも繋がっているということですね。

この場所を必要としている子は定期的に現れます。正直なところ、完全寄付で運営するとなると、何度か存続が危うい時期もありました。それに、これだけの生きものを世話するとなると、私自身も「ああ疲れるなぁ」と感じる時期もあって。でもそういった子どもと出会うと、うちの存在意義を改めて感じますし、鼓舞されるような気持ちになりますね。

同館の営業日は、土・日曜日の昼2時から夕方5時まで(1時間入れ替え制)。入場料は無料で、館内で寄付をおこなうことも可能だ。

取材・文・写真/つちだ四郎

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