動物番組“美談”演出への違和感 「芸能人の手には負えない」保護活動の壮絶な現実

5000平米もの飼育施設で、ワニガメを始め犬や猫まで600頭あまりの動物を飼育
 あまりにも強面すぎる見た目から、ネット上で度々話題となる「ワニガメ生態研究所」所長の荻野要さんは、岡山でワニガメやカミツキガメ、ワニといったどう猛なは虫類を中心に、どんな動物であろうとも高額の治療費がかかろうとも、一切の依頼を断らない保護動物たちの最終引き取り人だ。現在放送中の動物番組や生態系保護をうたう番組からも多数のオファーがあったものの、今ではテレビの取材はほとんど断っているという。私財を投じて行き場のない動物たちの保護活動を続ける荻野要さんに、現在の動物番組に対する思いを聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 荻野さんは地元・岡山にワニガメ生態研究所を設立したのは1996年。は虫類ブームでワニガメの遺棄が社会問題となると「捨てるくらいなら全部引き取る」と保護活動を開始した。長年の活動実績が評価され、その後ワニガメ生態研究所は日本初の特定外来生物・特定動物飼育保護許可施設に認定。現在は5000平米もの飼育施設で、ワニガメを始め、カミツキガメやワニ、犬や猫まで600頭あまりの動物を飼育している。

 荻野さんのところに送られてくるのは、は虫類以外にも、人を襲った大型犬や1回100万円の手術を受けなければ生きられない猫など、他に引き取り手がなかった動物たち。莫大な施設の運営資金をまかなうため、本業である建設業の利益のほとんどを保護活動に充てている。年に1度は興奮した動物に襲われ救急搬送されるような日常で、理念に共感して活動を手伝いたいと申し出てくれる人もいるが、実際に凄惨な現実を目の当たりにすると、多くは「考えが甘かった」と引き返していくという。

「テレビ取材を断るようになったのは、犬や猫を引き取り始めてから。どこにももらい手がないような犬だから、知らない人間が来ると大声でほえて大暴れする。その声に猫がビビッて病気になっちゃう」というのが主な理由だが、今の動物番組の在り方には疑問を感じることも多いという。

「池の水抜く番組は、つかまえた外来種はどうするのか聞いたら殺すって言うから断った。外来種を持ち込んだのが人間なら、外来種というくくりを勝手に作ってどんどん駆除してるのも人間。日本の池なんてほぼ人工池なのに、そこに在来種が帰ってきましたって、矛盾もいいところだよ。挙句コイまで外来種だって言い始めて。駆除は悪いことじゃないけど、専門家がやることで、タレントがショーでやることじゃない。今は『外来種は悪い生き物、駆除するもの』っていう考えが称賛される世の中になっちゃってる」

 ウケればいいというテレビの姿勢は、YouTubeではより顕著だ。有名動物系YouTuberのチャンネルでは「つかまえた外来種を食べてみた」「ピラニアの水槽に金魚入れてみた」など、見る人の興味を強烈に刺激する文言が並ぶ。

「外来種だって同じ命。俺から言わせれば犬猫を食ってるのと変わらない残虐ショーだよ。そりゃ俺だって肉を食うけど、食肉解体ショーはテレビで大々的にやるもんじゃないだろ。そういう残酷なことを平気でできるやつほど有名になる。有名になるとそれが正論になっちゃう。一度『それは違うんじゃないの?』って言ったら信者から総攻撃されちゃって。生態系保護もやりすぎると宗教と一緒。そうやって正しさがどんどん過激な方にいくことが俺は怖い」

 どうしても視聴率やアクセス数に寄りがちなテレビやYouTubeだが、荻野さんが本当に知ってほしいのが動物保護の現実だ。人を襲った大型犬、交通事故で四肢を欠損した猫、誰も管理のしようがない猛獣など、現実には貰い手がおらず、殺処分したほうが維持費のかからない動物たちがたくさんいる。「頑張れば頑張るほどお金が出ていくのが保護活動」と荻野さんは語る。

「物価が上がって、ペットフードも高くなって、保護団体もかなり困ってる。一切お金を取らずボランティアで頑張ってるところもあるけど、中には『譲渡金は30万円です、この子にはそれ以上かかってるので』なんて平気で言う団体もあって、そういうところの方が生き残っちゃうんだよな。保護なのか商売なのか分からない、そういうやつが保護団体やってるのが今の現実。テレビではちょっとトリミングしただけできれいになるような犬猫ばかりだけど、本当はとんでもない臭いとノミで、とても芸能人の手には負えない。全部がヤラセとは言わないけど、本物のアンダーグラウンドは見せてない。あんな美談で終わるようなものじゃないんだよ」

佐藤佑輔

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