〝ラスカル〟でブームのアライグマ被害 害獣完全排除目指す山梨県

 昭和50年代にアニメ「あらいぐまラスカル」でブームになったアライグマ。アニメや動物園で見る分にはかわいらしいが、実は農作物への食害や民家に住みつき糞(ふん)尿被害をもたらす特定外来生物の害獣だ。山梨県ではほぼ全市町村で捕獲されるなど急激な繁殖をみせており、県は野外からの完全排除を目指す。

■大規模繁殖の危機

「昨年度の山梨県内の捕獲数は245頭だが、氷山の一角だ。早急に大規模繁殖を防ぐ必要がある」

 アライグマなどの害獣対策を担当する石原徳幸自然共生推進課長は強調する。

 山梨県で最初にアライグマが捕獲されたのが平成8年。それが25年には47頭へ。その後8年で約5倍に増加した。石原氏はこのままなら「繁殖が大きな問題となっている北海道の1万5千頭とか、埼玉県の6千~7千頭というレベルまで一気に膨らむ」という危機感を持つ。

 かつては県東部の上野原市など、特定の地域での繁殖が問題だったが、今や全県へ拡大。アライグマの生態を調査している帝京科学大学大学院の加古敦子氏によると「今では甲府盆地全域で、捕獲地点が広がっている。さらに(県北西部の)北杜市にも広がろうとしている」とし、県内のほとんどで生息している可能性が高いという。

■雑食性で狂暴

 アライグマは雑食性で木登りも得意。気性が荒く攻撃性も高い。年に1回2~6頭を出産し繁殖力も高く、一方で日本には天敵が少ない。昭和50年代の〝ラスカル〟ブームでペットとして購入されたが、その凶暴さで家庭では飼い続けることができず、山林などに放たれたアライグマが野生で繁殖しているのが全国の実態だ。

 アライグマ被害はまず食害だ。木登りもできるため、畑や家庭菜園の作物だけでなく高級なブドウなどの果樹での被害も出ている。

 住宅の屋根裏などに住みつくケースもある。重要文化財の寺院や空き家に入り込むと、糞尿などで天井や壁が傷みにおいも問題になる。山梨には別荘も多く、別荘地で被害が広がれば県の観光産業に打撃を与えることになる。

 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などマダニがもたらす感染症の宿主となるといった健康被害も懸念材料だ。

  生態系被害の懸念も大きい。加古氏が捕獲したアライグマを調べたところブドウ、ドングリなどの植物だけでなく幼鳥、カエル、サワガニ、アリなどの動物を食べていたことが確認できた。神奈川県ではヤマアカガエル、トウキョウサンショウウオなどの希少な両生類も食べていることが確認されている。甲府市の笛吹川ではカワウのコロニーで卵の採食痕とそれに伴う営巣放棄の事例もあった。

■講習会で捕獲に従事

 こうした被害をふまえ山梨県は、捕獲体制の強化を図っている。

 アライグマ捕獲には箱ワナを使うが、通常は仕掛けるには狩猟免許が必要だ。だが、県が主催する講習会を受講すれば、免許がなくてもアライグマ捕獲に従事できるようにし、市町村と連携して捕獲従事者を増やそうとしている。

 講習では、加古氏らの調査をもとに、繁殖期の関係でメスは4~6月に、オスは1~2月に捕獲が多いことや幼獣を捕まえるこつなどを伝授。森林では動物を食べている一方、農地や人の居住区では果実を多く食べていることをふまえた、わなの餌の違いも教えている。(平尾孝)

+Yahoo!ニュース-国内-産経新聞